高度医療などが進んでいるアメリカでは、個人の自由を尊重する風潮が介護保障にも反映されています。今回はそんな「自由の国」アメリカの介護事情について詳しく紹介します。
目次
- 【1】アメリカの保険制度をみてみよう
- 【2】アメリカの介護の実態は?
- 【3】アメリカの介護施設の種類と費用
- 【4】これからの施策や解決策は?注目したい3つの試み
- 【5】ベビーブーマー世代の高齢化と、追いつかない介護制度
アメリカの保険制度をみてみよう
アメリカの介護制度を考える上で重要なのは保険制度です。日本でも介護保障の中で保険制度を用いていますが、アメリカの公的な保険制度はまだまだ不充分な部分が多いんです。まずはアメリカの保険制度をくわしく紐解いていきましょう。
アメリカでは、大きく2つの公的保険が連邦政府または州政府によって提供されています。それは65歳以上の高齢者、身体障害者、慢性腎不全患者を対象としたメディケア、低所得者を対象としたメディケイドというもの。
しかし、これらの保険は誰もが入れるわけではありません。保険に加入するには所得や病状などに厳しい制限があるからです。
それに、メディケアの保障内容にも少し問題があります。メディケアは、あくまで病気を治すための保険です。加入できたとしても、退院後の長期的なリハビリなど、十分な介護ケアを受けることができません。
「メディケアに入れない!」「メディケアだけじゃ足りない!」となってしまった人は残された道は高額な民間の保険に入るしかありません。当然、高額な民間の保険には低所得者は加入できません。結果的に、親族が在宅で介護をし、負担を背負うケースが多くなっています。
アメリカの介護の実態は?
なぜアメリカは公的な介護保険制度が整っていないのでしょうか?
それは、自立を重視するアメリカの文化的背景が原因として考えられます。
日本より遥かに人種も多いアメリカは、地域コミュニティも様々です。そのため、助け合いの文化がある日本とは異なり、個々の生活は自己責任であるという認識が強くなっています。ですから、高齢者の生活もまた、個人の責任で行うべきという認識が一般的なようです。
ここで、アメリカの介護の実態をみていきましょう。
高い在宅介護率と家族への負担
現状、アメリカの高齢者の90%は、一般の住宅などに住んでおり、残りの10%は、ケア付きの住宅や施設に住む高齢者であるようです。米厚労省の統計によると、在宅で介護を必要としている方々の70%は、支援を受けずに家族によって介護がされています。さらに、介護者の70%は女性だそうです。配偶者が介護しているケースももちろんですが、その多くは高齢者の娘による介護だということです。
女性が介護者に多い理由
なぜ介護をするのは女性の方が多いと言われているのでしょうか。
ミシガン大学のヘルス・リタイヤメントにおける調査によると、娘は、高齢の親の介護に1ヶ月に平均12、3時間費やしているにも関わらず、息子は平均5、6時間という結果が出たそうです。
在宅介護を行う女性達が、外で働けないことによる経済的損失は当然大きく、社会問題とされています。
労働価値を算出している統計によると、アメリカでは家族が無償で行っている介護を金銭に換算した場合、年間で1,960億ドル(約23兆円相当)にもなるということです。女性の活躍が経済的な国力にとって重要だと考えているアメリカ。介護をしている女性達にとって、社会に出やすい環境をつくることが、今後の重要なポイントになっています。
アメリカの介護施設の種類と費用
自宅で介護を受けている高齢者以外に、どのような環境でアメリカの高齢者の方々は過ごしているのでしょうか。アメリカの介護施設の種類は、大まかに5つあります。
高齢者用アパート
費用:月々1,200〜2,000ドルほど
自立生活が可能な高齢者の為のアパートです。
介護付き住宅またはアパート
費用:月々2,000~3,000ドルほど。
介護を必要とする高齢者の為の施設です。
介護付き住宅・レジデンシャルケア
費用:月々2,000~4,000ドルほど。
介護を必要とする高齢者の為の施設ですが、一軒屋を利用しています。
ナーシングホーム(認知症専門病棟)
費用:月々4,000ドル~
看護師や医師が常駐しており、介護だけでなく、リハビリや医療行為が必要な高齢者の為の施設です。
終身介護つき施設
費用:2,000ドル〜(入居時に別途金額がかかる。)
終身介護つき施設は、認知症専門病棟と同じ機能が備わっている総合施設です。
上記でご覧いただいたように、どこで介護を受けるかによって費用が大きく異なります。お手頃な民間施設もあるそうですが、十分なサービスが備わっているか否かは、個々の施設を調べないと分かりません。
これからの施策や解決策は?注目したい3つの試み
住宅に住む高齢者と介護をする家族を、どのようにサポートしていけばいいのでしょうか。
海外社会保障研究のクルーム洋子さんは、以下の3つのポイントを中心として試みることが重要と述べています。
①高齢者が住みやすい家づくり
多くの高齢者にとって、安全で使いやすい住宅と暮らしは、持ち家であっても難しいとされています。そのため、今後もユニバーサル・デザインを提唱し、障害者に優しい家づくりを目標とすることを、重要と考えています。また、低所得者の間では、住宅共有(sharedhousing)が広まっているといいます。生活に支障をきたす高齢者が住まいを提供し、代わりに、生活のサポートをしてもらうという仕組みです。自立の精神から、助け合いの関係性を築く取り組みは、アジア系の人種を中心に浸透されているそうです。
②居宅・地域サービスの拡充
1965 年に成立した、高齢のアメリカ人法(The Older Americans Act of 1965:略称 OAA)を中心に、住居、地域サービスの拡充を広まめる活動がされています。あくまで、自立を尊重し、高齢者の社会活動を支援する姿勢を打ち出した法律となっています。
③高齢者に優しい街づくり
経済開発など、高齢者問題を幅広い視点で観察し、コラボレーションすることで高齢者問題を見直すという動きです。
このように、あくまで高齢者の自立を尊重しながら、社会との関わりを深めていこうという活動が盛んになってきているようです。
アメリカの文化的な要素と、新しい支援のかたちを取り入れて、今後アメリカが高齢者問題にどう向き合っていくのかが、注目されます。
参考:http://www.ilcjapan.org/chojuGIJ/pdf/12_02_5.pdf
ベビーブーマー世代の高齢化と、追いつかない介護制度
日本では、社会問題として意識されている高齢化ですが、アメリカ社会では、日本と比べると高齢化の度合いが低いためそこまで重要視されていませんでした。
しかし、第二次世界大戦直後のベビーブーマー世代の高齢化に伴い、住宅とケアの課題が表面化してきました。加えて、アメリカでも日本と同じように、平均寿命も伸びてきています。
ですが、「個人の自由」が重視されているアメリカでは、医療保険も含め、行政による福祉制度は国民全てを守るものとして機能していないのが現状です。経済的な不安を抱える高齢者にとって、公的な保険制度がないアメリカの介護事情は、生活面・精神面の両面に大きな影響を与えています。
また、在宅を希望する高齢者や介護者に、いかにして暮らしやすい環境を整えていくかなどの課題もあります。これは日本も共有して考えていかなければならないものです。これから、超高齢化社会を迎える日本も、こうした海外の取り組みに目を向けることも大切ですね。