一人っ子政策の影響もあり、日本と同様、急速に高齢化が進む中国。それによって、高齢者の介護のあり方に関する議論も徐々に高まりを見せています。今回は、中国の介護の現状と日本企業進出の可能性について探っていきたいと思います。
目次
- 【1】日本以上に深刻な少子高齢化…中国の介護の現状は?
- 1.「高齢者自殺」が深刻な社会問題に
- 2.制度にも格差が…中国の介護保険制度
- 3.介護ビジネスの現状
- 【2】どうなる?日本の介護事業者の中国進出
- 1.いったいなぜ?苦戦を強いられる「日式介護」
- 2.日本と中国の制度の差
- 【3】今後はどう変わる?中国介護のこれから
日本と同様、いや日本以上に深刻な少子高齢化に悩まされているのは中国ではないでしょうか。
1979年から2015年にかけて、人口増加を抑えるために行われた「一人っ子政策」が現在が現在の人口構造に大きな影響を与えています。
今回は、実はあまり知られていない中国の介護事情について学んでいきましょう。
日本以上に深刻な少子高齢化…中国の介護の現状は?
中国の高齢化はどのくらいの速さで進んでいるのでしょうか。
一般的に、ある国の人口の中で65歳以上の人の割合が7%を超えたら「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」といわれています。そして、この「高齢化社会」になってから「高齢社会」になるまでの間、つまり65歳以上の人の割合が7%から14%に増えるまでにどれだけの時間がかかったのかを比べることで高齢化のスピードを測ることができます。
中国は現段階ではまだ「高齢化社会」で、65歳以上の割合は14%には達していません。しかし、2025年には14%に達するとみられており、2002年に7%を上回ったので、この増加にかかった時間は24年。ちなみに、日本は25年なので、中国の高齢化は日本とほぼ同じ速度で進行しているといえるでしょう。
ですが、ヨーロッパ諸国と比べるとその差は歴然。イギリスは46年、ドイツは42年、スウェーデンは82年、フランスに至っては114年かかっています。
高齢化が緩やかに進行すればするほど、それの対応策もゆっくり、時間をかけて考えることができます。日本や中国のような急速な高齢化は、この二国だけではなく、他のアジア各国でも同様の現象が見られます。
急速な高齢化の問題はアジア諸国に共通する問題なのです。
「高齢者自殺」が深刻な社会問題に
「4・2・1社会」。みなさんはこの言葉を聞いたことがありますか?
4人の高齢者を2人の子ども、そして1人の孫で支えなければいけないという中国社会の現状を表す言葉としてよく使われる言葉です。
日本などと同じように、中国も昔は「年老いた高齢者の面倒は子どもが見る」という伝統がありました。ですが、経済成長が進むにつれて、農村に親を残し、都会に出る子どもが増加。核家族化が進行します。
さらに、競争社会となり、都会に出た子どもたちは孫世代の教育費を払うのでいっぱいいっぱい。とても、親の生活の面倒を見るだけの金銭的余裕を持てないのです。
こうして、家族に頼ることができない身寄りのない高齢者が自殺を図るという例が後を絶ちません。
制度にも格差が…中国の介護保険制度
介護が必要担った高齢者が、自ら命を絶たなければならない状況に追い込まれてしまう…そんな深刻な事態に対応するため、中国の行政は介護保険制度の確立に向けて動き始めています。
日本では2000年から導入された介護保険制度ですが、中国では2020年の全国での導入を目指し、現在「パイロット地区」に指定された地区で試験的な導入を行っています。
日本が2000年に介護保険制度を導入した当時、高齢化率は17.3%でした。一方、中国が介護保険制度の全国導入を目指す2020年の高齢化率の予想は11.7%。もちろん、制度の内容や検討・導入の時期が異なるため、単純に比較することはできませんが、この数字だけを見れば中国は日本と比べて高齢化の早い段階で介護保険制度の導入に踏み切ったといえます。
中国の制度の特徴は、介護保険が医療保険の延長線上に位置づけられていることにあります。保険料も医療保険の基金から転用され、被保険者などによる直接の負担はありません。
日本の介護保険制度の場合、保険料を支払うのは40歳以上ですが、中国の制度の場合、公的医療保険に加入していれば、年齢制限はありません(公的医療保険に入ることのできるのは法定労働年齢(16歳)以上なので、事実上は16歳が介護保険に加入できる最低年齢)。
そのため、中国の介護保険制度において給付を受けることができるのは高齢者に限りません。現役世代であっても、何かしらの事情により寝たきりなどの状態になって介護が必要になれば給付を受けることができます。
このように、中国の介護保険制度は介護に特化した保険というよりも、医療保険の枠組みの中での「オプション」という面が強い制度といえるでしょう。
ですが、このような保険制度の対象となるのは一部の都市の住民のみ。農村地域の住民が多く加入する「新農合医療保険」は介護保険制度の対象にならないという事実があることも忘れてはいけません。
ここでも、中国の過酷な格差社会の一端を垣間見ることができます。
介護ビジネスの現状
これから、ますます高齢化が進んでいくと予想される中国ですが、介護ビジネスは一部大都市を除いで未発達というのが実情です。
核家族化が進行している現在の中国においても、まだ「高齢者の世話をするのは子供の役割だ」という意識が根強く残っています。
そのため、介護職は家族の代わりに雇われる「家政婦」のような位置づけとなっています。そのため、面倒だけ見てくれればいいということで、専門的なサービスへの要望は少なく、そのような競争も起きません。
事実、高齢者サービスの職の就業者は専門的な訓練を受けたことのない失業者や農村にいる余剰人員が中心との報告もあります。
中国の介護の世界で働く人たちは、12時間勤務や24時間勤務まで過酷な労働環境のもとで働いています。そのため、介護の職に就く人たちの多くが他に働き口を見つけることのできなかった人となっており、人材の動きが流動化、専門的な職員が育たない環境にあるのです。
もちろん、このような状況は介護保険制度の整備とよりより介護へのニーズ拡大とともに改善されていくことが予想されますが、現時点ではこのように問題が山積みの状況です。
どうなる?日本の介護事業者の中国進出
中国の急速な高齢化と介護需要の拡大を見越して、日本の介護会社も相次いで中国参入の動きを見せています。
日本式のサービスは中国では「日式」と呼ばれ、多くの分野で注目を集めています。ですが、実は介護の世界ではそううまくはいっていないの現状です。
いったいなぜ?苦戦を強いられる「日式介護」
日式介護は中国で苦戦しているのが実情。赤字経営の企業が多く、ある日系企業が運営する施設はオープンから4年でようやく入居率が80%を超えました。通常であれば、2年ほどで90%を越えなければ経営面で厳しくなるところをずっと50%で推移していたそうです。
日本と中国の制度の差
日式が苦戦している背景には日中両国間の制度の差が考えられます。
日本の介護事業者は、介護保険などのしっかりとした社会保障制度を基礎としてビジネスモデルを確立させてきました。ですが、中国ではそのような制度が未発達のため全く同じことをやろうとしてもなかなかうまくいきません。
また、日本とは異なり中国には介護施設の人員配置基準がありません。そのため、介護職員1名につき、日本の2~3倍の入居者のお世話を行わなければならないケースも珍しくなく、日本企業はこのような施設を相手に、コスト面で厳しい状況に置かれているのです。
さらに、決定的な違いは日中間における介護に対する考え方の違いです。
日本の介護は目標は「自立支援」。食事やトイレなど日常生活にかかわることをできる限り入居者が自分でできるようにすることを重点を置いています。ですが中国では「高いお金を払っているのだから身の回りの面倒はスタッフがみるべきだ」という考えが根強く、日式介護との間に摩擦を生んでいます。
このような摩擦を解消するための取り組みの一環として、東京に本社を置く、「フランスベッド」という会社は中国での日本製福祉用具の販売に力を入れています。福祉用具を通じて、日本の介護の考え方への理解を深めようというのが狙いなのです。
今後はどう変わる?中国介護のこれから
現在の中国では、高齢者のケアの多くを病院に頼っている現状があります。それが、介護業界の未熟さにもつながっているのでしょう。
日本でも以前は「社会的入院」といって高齢者を病院の中に押し込んでしまうことはよく見られました。しかし、現在ではそのような考え方はもう一般的ではありません。
日本がグループホームや施設の個室化を進め始めてからまだ、20年も経っていません。日本をはじめとするする世界的な「自立支援」という介護サービスのあり方に乗っていければ、中国の介護は大きな変容を遂げることになるのではないでしょうか。