ダンスセラピーってご存知ですか?
ダンスセラピーは、その名の通り、ダンスを踊ることや身体を動かすことによって、心身を健康な状態に導く目的をもった治療法のこと。
いったいどのような治療法なのか、詳しくレクチャーします!
目次
- ダンスセラピーの方法は?
- ダンスセラピーのポイント
- ダンスセラピーの実施例
- ダンスセラピーの効果は?
- ダンスセラピーの対象者は?
- アメリカで始まったダンスセラピー
- 誰でも出来て、高い効果を期待できるダンスセラピー
ダンスセラピーとは?
ダンスセラピーは、正式には『Dance Movement Therapy(ダンス ムーブメントセラピー)』とよばれるもの。
アメリカのダンスセラピー協会の定義によると、ダンスセラピーは『個人の感情的、社会的、認知的、身体的統合を促進する一過程としてムーブメントを心理療法的に用いること』とされています。(参考:『ダンス・セラピーの理論と実践 からだと心へのヒーリングアート』)
ダンスというと、フォークダンスやバレエ、サルサやタンゴなど“リズムに合わせて踊る”“振り付けされた踊りを踊る”というイメージを持っている方が多いと思います。
ですが、ダンスセラピーで重視されているのは“上手に踊ること”ではなく、“身体を動かすことで生まれる心理的な変化”です。
ダンスを踊ることはもちろん、即興での動きによって自分を見つめること、また、他人との交流を図ることを目的としています。
ダンスセラピーの方法は?
ダンスセラピーは、静かなゆったりとした空間で、5人から10人の集団を対象として行われます。
- ウォーミングアップ
- 展開(動きの広がり)
- クロージング
で構成され、1回のセッション当たり30分から2時間程度とされています。
ウォーミングアップは、現実からダンスセラピーに導入していく役割をもつもの。
ウォーミングアップでは、自分の身体に意識を向け、自分自身と向き合う準備をすることが目的とされています。
気持ちを整え、身体をほぐすために、手足をリズムに合わせて動かしたり、ウォーキングを行うなど、誰でも簡単にできる方法が取り入れられています。
続いて行われる展開では、ウォーミングアップからの流れやその日のテーマワーク、そして、参加者の中から浮かび上がった感情や意味を探求していきます。
このとき、セラピストから動作にあった指示が出されます。
例えば、ウォーミングアップでウォーキングを行った流れの場合、「誰かと目が合ったら後ろにジャンプする。」など。
「誰かとすれ違う時には必ずお辞儀をする。」という同じ指示でも、すれ違う際に笑顔になる方もいれば、目をそらす人がいたりするなど、1人1人で違う動きが見られること、そして、1つの指示に他の動きをプラスすることによって引き出される動きによって、付随している心理的な感情がどのようなものなのか、自分の内面を見つめることができるとされています。
ダンスセラピーのポイント
踊りによってコミュニケーションを図っていけるダンスセラピーですが、あえて目を合わせないようにしたり、声をかけないようにしてコミュニケーションを図ることができない状態を作ることも。
そうして生まれる他者との関わり方によって、その人らしい動きが表現できるとされています。
また、ダンスの技法としては、主にモダンダンスが取り入れられていますが、舞踏や民族舞踊、ジャズダンスなどの他、ウォーキングや発声など、さまざまな動作も用いられています。
共通するのは“即興で行うこと”。
用いられる音楽も、静かな曲やリズミカルな音楽など、感情や行動の活性化が期待できる音楽となっています。
ダンスセラピーの実施例
以下に、実際に行われているダンスセラピーの例を2つご紹介します。
認知症高齢者向けのデイサービスにて導入
円形で椅子に座り、上半身や下半身をリズム感を入れながらマッサージして、ほぐしていきます。
展開
童謡やなじみのある歌を歌いながらここで踊り、周りの方に投げかけるように交流を図っていきます。
スタッフは参加者に挨拶をしていきます。
輪の中央で、動揺を歌いながら1人ずつ踊る、参加者の振り付けでスタッフも一緒に踊る、スタッフだけで踊るなど、さまざまな組み合わせで踊ります。
マッサージや深呼吸でクールダウンを図ります。
クロージング
スタッフの誘導で1人ずつ退場します。
認知症の方に対して、なじみのある童謡を歌うことによって回想法の要素を取り入れたセッションとなっています。
精神科の病棟にて
導入
座って音楽を聞きながら身体を揺らすなど、ゆっくり静かに揺れを大きくしていきます。
隣の人と肩が触れ合い、挨拶を交わすことによって、他者との交流も図ります。
展開
身体の揺れが大きくなるにつれて、手足が動き、動きから導き出されたイメージを言語で伝えることによって、さらに動きが大きくなります。
身体の揺れや動きが大きくなった弾みで立ち上がり、音楽に合わせて身体をゆらしていきます。
テンポアップした音楽に変えることで、揺れからステップに動きが変化し、フロアを移動しながら他の人との交流を図ることができます。
参加者の動きからイメージできる言語で介入することで、感情を解放することが可能となります。
解放された感情を共有して、他の人とのつながりを感じることで安心感を得ることができます。
クロージング
セッションで体験したことを言語で伝えます。
誰でも簡単に、そして他の人とのかかわりを持つことによって安心感や安定感を感じることができるセッションとなっています。
ダンスセラピーの効果は?
ストレッチやウォーキング・ダンスなど、さまざまな方法で行われているダンスセラピー。
いったいどのような効果が得られるのでしょうか?
ダンスセラピーによる効果として、身体を動かすことによる健康の維持・促進。
そして、自分で考えて動くことによる脳の活性化が期待できます。自分の内面を見つめ、リラックスできるという効果も。
また、懐かしい音楽で踊ることによる、認知症改善の効果もあるとされています。
認知症の方がダンスセラピーで身体を動かすことによって、「笑わなかった方が笑うようになる」「反応を返してくれなかった方が手を握り返してくれる」など、臨床の現場でも高い効果が得られています。
自分で考えながら、簡単な運動やダンスをするダンスセラピー。誰でも気軽にチャレンジすることができるうえ、心と身体の両方に効果が期待できるというメリットを持っているんです。
ダンスセラピーの対象者は?
ダンスセラピーは、心身症やうつ病・神経症・統合失調症・心身障害児・被虐待者・PTSDなど心理的な問題を抱えている人はもちろん、健常者に対しても有効とされています。
また、慢性の統合失調症など、言語での交流が難しい人や防御が強い人、そして、摂食障害などを罹患している人に対しても効果的とされ、医療や福祉・介護の分野をはじめ、教育や地域、産業の分野など、幅広い分野で注目されています。
ダンスセラピーは2人組で行うこともありますが、心理的な疾患を抱え、身体的な接触が刺激となる方に対しては、身体接触を避けたり、背中や手足の末端部分などから少しずつ慎重に行うこととされています。
アメリカで始まったダンスセラピー
ダンスセラピーは、1942年にアメリカのモダン・ダンス教師であったマリアン・チェイス(Marian Chace)が精神科の入院患者を対象に行ったリズム運動のクラスが原型とされています。
マリアン・チェイスは、抗精神病薬が使用される以前に、言語的交流が難しい精神病の患者に対して、簡単なダンスやリズムによって非言語的な次元で心理的な交流を築きました。
心理的な交流を築くことによって、精神病を罹患している患者の健康的な自己表現を引き出すことに成功したとされています。
この手法がダンスセラピーまたはダンスムーブメントセラピーと言われ、心理療法家や舞踏家を中心としてアメリカ国内で広まりをみせ、1966年にアメリカ ダンス・セラピー協会が設立されました。
日本にはいつ持ち込まれたの?
現在、欧州や南米、オーストラリアやアジアなど、世界中のさまざまな国で実施されているダンスセラピー。
日本に伝わったのは1960年代とされていますが、実施されるようになったのは1980年代に入ってから。
1984年にアメリカのセラピストであるS.チェクリンが来日したことをきっかけに、アメリカでダンスセラピーの資格を取る人が増え、心理療法家や舞踏家が教育・臨床へ導入していきました。
1992年には日本ダンスセラピー協会が設立され、1999年から資格制度が開始されるなど、急速に広まってきています。
誰でも出来て、高い効果を期待できるダンスセラピー
身体と心が密接に関わることに注目したダンスセラピーは、心身の問題解決を図ることができる方法と言われています。
医療や介護から教育の分野まで、導入されている場所もさまざま。子供から高齢者まで、その人に合わせた方法で高い効果を期待できる治療法として、注目を集めています。