集団の中での人間関係を、目に見える形として把握することが可能となるソシオメトリー。
福祉の現場でもアセスメントのツールとして使われています。
いったいどんな方法なのか、くわしくお伝えします。
目次
- ソシオメトリーとは?
- どんな方法で明らかにするの?
- ソシオメトリックテストとは?
- ソシオマトリックスとソシオグラム
- 実施が問題になることも
- 集団の発展に役立つ
ソシオメトリーとは?
ソシオメトリーとは、集団構造や人間関係を測定する技法のことです。
ラテン語の「socius(仲間)」「metrum(測定)」を語源とし、精神分析家のヤコブ・モレノによって提唱されました。
彼は心理臨床の世界で著名なユングの弟子としても知られています。
集団の構造を理解することは、社会生活において重要です。
なぜなら、人は1人では生きていくことは難しいので、人と人が関わり合い、さまざまな集団を作ることによって生活を成り立たせているからです。
しかし、出来上がった集団の中では、「合う人」と「合わない人」が当然存在しています。
また、集団が大きくなればなるほど関わり合いを持たない人もでてきますよね。
そんな集団における個人間の関係を、モノレは「誘引」や「反撥」の感情から成り立つものと定義しました。
これらの感情が複雑に絡み合い広がりながら、集団の関係性を作り上げています。
そして、この感情の絡まりを解きほぐし、集団の関係性の理解を助ける方法こそが「ソシオメトリー」なのです。
どんな方法で明らかにするの?
ソシオメトリーは、個人の心理的な広がりや心理状態を測定することから始まります。
しかし、目に見えるものであれは、容易に測ることができますが、目に見えない心理的なものを測定するにはどのような方法があるのでしょうか?
これに対して、モレノは、人間関係や集団構造を分析するテストを考案しました。
それが以下の5つです。
- 自発性テスト(spontaneity test)
- 役割演技テスト(role-playing test)
- 状況テスト(situational test)
- 知己テスト(acquaintance test)
- ソシオメトリックテスト(sociometric test)
ソシオメトリックテストとは?
モレノが考案した5つの方法の中でも、代表的なソシオメトリックテストをご説明します。
これは、対象者に一定の基準に基づいて、「選択(親和・牽引)」と「排斥(反感・反撥)」を回答させることによって、人間関係の心理的な動きや集団の構造を分析する方法となっています。
テストの実施方法は、対象となる集団の範囲や場面を明記したものを提示し、対象者に「選択」と「排斥」の人を選ばせ、その人を選んだ理由を回答させるというもの。
一つ例を挙げてみますね。ご自身が所属する集団を思い浮かべてみてください。
問題:これから旅行に行く班を決めます。一緒に行きたいと思う人を5人選んでください
一緒に行きたい思えた人は「選択」された人です。
反対に、行きたくはないなと感じた人がいたら、その人は「排斥」された人になります。
こうして集団の中の人を分類していきます。
次にその検査によって得られた結果をソシオマトリックスという表にまとめて、ソシオグラムという図を作成します。
最後に、得られたソシオグラムから、人を区分して集団の人間関係を特定していくことになります。
ソシオマトリックスとソシオグラム
次に、ソシオメトリックステストで少し触れた「ソシオマトリックス」と「ソシオグラム」に関してくわしく説明していきますね。
ソシオマトリックスは、縦と横に同じ順番で集団の構成員を並べた表に、各個人が行った選択・排斥の結果を記入するものです。
この表を作成することで、選択・排斥による構成員の地位を数量的に読み取ることが可能となり、大きな集団での関係の把握がしやすくなります。
選択は○、排斥は×で表され、お互いに選択した場合は◎、排斥した場合はキで表されます。
その結果から、以下のように人物を分けます。
スター(人気者)多くの人から選択された人排斥多くの人から排斥された人孤立選択も排斥もされていない人周辺選択や排斥の数が少ない人
ソシオマトリックスは、表を作成するのに時間がかかるというデメリットがありますが、大きな集団でも把握しやすくなるというメリットがあります。
ソシオグラムとは
ソシオグラムは、集団を構成する個人間での選択・排斥の関係を矢印で表し、図表化したもの。
個人は点で、そして、個人間の関係を選択は実線・排斥は破線で表します。
実線が多い人気者や、破線が多いのけ者など、集団における個人の立ち位置を把握することができます。
また、集団内でのグループや、そのグループ同士の関係についても、把握することが可能となります。
ソシオグラムは、集団における関係を把握しやすいというメリットがありますが、構成する人数が増えることによって、読み取るのが難しいというデメリットがあります。
実施が問題になることも
集団の中における人間関係を把握することができたため、有用な方法として知られているソシオメトリーですが、実施する際には注意も必要です。
実際に、学校で集団について把握するために、「好きな人と嫌いな人の名前を書いてください」という質問で行ったことや、「一緒に遊びたくない子の実名を書いてください」というアンケートを行ったことによって、ニュースで問題として取り上げられたこともあります。
テストを行う側からは分らなかった人間関係を把握することができるメリットがあるものの、実名の記入やその理由を記載することが必要となるのがソシオメトリーです。
テストを行う人と、対象となる人との間で信頼関係が築かれていることや、実施する理由についての説明をしっかり行うことが重要となるでしょう。
集団の発展に役立つ
集団における心理的な関係を視覚的に表すことができるソシオメトリー。
現在、ソシオメトリーは学校や職場・地域のコミュニティなどで利用されています。
目に見えない集団における関係を、ソシオメトリーによって目に見える形とすることができるので、人間関係の把握ができ、問題の発見や集団の再編成などに役立てることができるからです。
しかし、さまざまな集団に注目されていますが、テストを実施した時点の状態に限定されていることには注意が必要です。
人間関係は常に変化するものですから、テスト時と現在で違った関係性になることもあるでしょう。
ソシオメトリーによるテストを行う際には、実施する側とされる側との信頼関係があることも重要となりますが、実施する目的や理由をしっかり説明し、集団の再検討や発展に役立てていけるといいですね。