ドイツと日本は、「介護保険」を社会福祉の基礎にしているという点でよく似ています。
けれどもドイツは日本より早く制度を始めており、一歩進んで介護問題に取り組んでいるんですよ。
今回は、ドイツが積極的に進める家族介護政策を中心にドイツの介護を紹介していきます。
目次
【1】ドイツの介護の柱、「介護保険制度」をみていこう
【2】さらなる充実を目指して 介護保険の大改革
【3】誰でも介護士になっちゃう?ドイツが進める在宅介護とは?
【4】仕事と両立が課題、ドイツの家族介護の実態
【5】日本でもできる?ドイツの家族給付を考察
ドイツの介護の柱、「介護保険制度」をみていこう
まずはドイツにおける介護保険を知ることがドイツの介護制度の理解につながります。それでは、ドイツの介護保険制度のポイントをおさえていきましょう。
介護保険が施行された経緯
ドイツの介護保障は1995年に、介護保険法が施行されたところから始まりました。
なぜ介護保障に保険という形式をとったかというと、1880年代のビスマルクの時代に、ドイツが世界で初めて社会保険制度を創設したことに由来しています。創設以降、時代のニーズに応えて、医療保険・労災保険・年金保険・失業保険と続き、最後に介護保険が導入されました。
介護保険の基本理念
ドイツの介護保険は、以下の三点を基本理念としています。具体的な制度はこれに沿ってつくられていきます。
在宅介護の優先
要介護者に対して、できる限り施設の長期入所を避けて、家で介護を受けることを求めています。具体的には、デイサービスやショートステイの利用に対する給付を手厚くする形で支援をしています。
予防とリハビリの優先
予防とリハビリによって、要介護状態にならないようにという努力義務を定めています。これは医療とも関わってくるので、具体的なケアは医療保険の方で示されています。
行政や施設、介護金庫が負う介護サービスの共同責任
公的機関と施設が、在宅介護サービスと医学的リハビリテーションを提供することを求めています。各機関が連携することで、総合的な支援をすることができる体制を整えています。
さらなる充実を目指して 介護保険の大改革
現在では介護保険の基本理念を守りながら、さらなる介護サービスの充実が図られています。2015年には、大規模な制度改革が行われ、以下の3点が大きく変更されました。
要介護者へのケアの強化
主に自宅での介護の充実に取り組んでいます。自宅をバリアフリーに改装にかかる費用や介護用品の購入費用の補助を増額しました。
家族介護者へのケアの強化
家庭で介護をする人に対して、時間的・精神的に余裕を持ってもらうことを目的に整備を進めています。中でも認知症患者の介護者に対するメリットが大きく、認知症と診断された直後で、まだ正式な介護度が認定されていない場合でも、介護サービスを受けたり、10日間の有給休暇を取ったりすることができるようになりました。
介護業従事者のケアの強化
介護の職に携わる人員の増加、並びに介護サービスの質の増加を目指しています。新たな職業訓練を通して、後継者の育成に力を入れようとしています。
しかし、こうした改正で介護サービスはさらに充実しつつありますが、その分財源を確保することが必要となります。そのため、保険料が増額されることも決定しました。ドイツでも少子高齢化は深刻で、ますます増えていく社会保障費にどのように対応していくかに悩まされています。
誰でも介護士になっちゃう?ドイツが進める在宅介護とは?
前述の介護保険の基本理念の中でも触れましたが、ドイツは在宅での介護を推進しています。
というのも、これからの介護人口の増加を考えると、施設入所型介護ではカバーできなくなってしまうからです。そのため、この在宅介護を進めるために、「家族給付」という特徴的な制度をドイツでは実施しています。
「家族給付」ってどんな制度?
この「家族給付」は、在宅介護の中でも多く要望がある家族からの介護を求める声に応えたもので、家族介護をする人へのケアを手厚くしています。
具体的な内容は、週14時間以上在宅で介護している人を「家族介護者」として、その人が週30時間以上仕事をしておらず、さらに介護年金を取得していない場合、介護期間中は年金保険料を支払うというものです。
「家族給付」は何に役立つ?
この給付によって、自分が介護に従事しても保険料がもらえますし、身近な人に介護を依頼して、その介護費用をここから支給することもできます。施設入所ができなくて、自分が介護をしなければならなくなった、もしくは誰かに介護を頼まなければならなくなったとき、お金が支給されるのは安心ですね。
さらに、保険を適用させることで介護を仕事と捉え、社会的な評価を得ようとするねらいもあります。家族介護を負担とするのではなく新たな仕事して受け止めることを可能にしようと動いています。
仕事と両立が課題、ドイツの家族介護の実態
しかし、家族介護を推進しつつも、家族介護そのものがあまり根付いていないという問題をドイツは抱えています。次に家族介護を難しくしている原因を探っていきましょう。
一つ目は、ドイツの「個」を大切にする家族観です。
日本のように「長男だから自分が家のことをしないと……」といったような意識はほぼなく、自分の意思で自立した生活をしようという考え方が主流なんです。
となれば、親の介護で自分の生き方が左右されるなんで冗談じゃないですよね。実際に、親の介護に関する支払いを拒否して裁判になったなんて事例もあります。
二つ目の原因は就業と介護の両立支援が不充分であることです。
もちろん、ドイツにも「介護時間法」という日本の介護休業にあたる制度をつくってはいますが、あまり利用されていないんです。
利用されていないのは、制度の内容に原因があります。介護時間法では、6ヶ月の長期休業と短時間勤務のどちらかを選択することができますが、長期休業は15人以上従業員がいる事業所でしか取得できないという規制があります。
さらに、短時間勤務は最長2年間、最大50%の短縮が可能ですが、短縮された50%の賃金を前借りすることになるんです。つまり、短時間勤務を利用している最中は通常通りの賃金となるけれども、短時間勤務が終わったら給料から前借り分を差し引くことになってしまいます。そのため、短時間勤務が終わっても清算しない限りなかなか給料は元に戻りません。
これには働く側からは「単なる借金だ」という批判も出ています。
日本でもできる?ドイツの家族給付を考察
日本もドイツと同じように介護人口が増えている状態ですし、介護施設の入居を待っている方も大勢います。
だったら、日本も家族給付を始めてみるべき?と思うかもしれませんが、そう考えるのはちょっと早すぎます。
実はこの家族給付金、経済的に問題になる可能性があるんです。家族介護で給付金をもらって介護が済んでしまうと、介護士の職を奪うことになってしまいます。
さらに介護離職も推進されて労働力が減ってしまうことも。国から補助金が出て行くばかりで、入ってくる税金が減ってしまうので、日本の厳しい財政状況を考えると実現はなかなか難しそうですね。
さらに、不正受給の問題も出てくるでしょう。
給付金をもらうだけで、満足な介護をしないなんてことが起こりかねません。それに、介護をするのは家族といっても介護の専門的な知識がない人ですから、介護の質を確保できない恐れがあります。
こうしてみると、ドイツの介護保険制度をそっくりそのまま真似をするのは危ないと言えるでしょう。ですが、家族給付などの取組は、介護施設の入居待機を解消する一例として参考になる部分は多いですね。