“認知症の方が幸せに、安全に暮らすことのできる村”。そんな場所がオランダにあることはご存知ですか?「Hogewey(ホーゲヴェイ)」と呼ばれるその場所は、認知症の方だけが入居できる施設で、暮らす方々の意思がしっかりと尊重されています。
目次
- 【1】認知症の方だけが住むことのできる村「ホーゲヴェイ」
- 【2】入居の条件はあるの?費用は月に約70万円!?
- 【3】ホーゲウェイはどのように誕生したのか
- 【4】一人一人のライフスタイルに合わせて
- 【5】「できないこと」ではなく、「できること」に目を向ける
- 【6】一方で批判も…
- 【7】まとめ
認知症の方だけが住むことのできる村「ホーゲヴェイ」
「認知症の方だけが入居できる村」があることをご存知ですか?
「Hogewey(ホーゲヴェイ)」と呼ばれるその場所はオランダの首都であるアムステルダムから約25キロほど郊外に出た、ヴェースブというのどかな田園地帯に2009年に開発されました。オランダの介護施設は一般的に静かで美しい自然に囲まれた場所にあることが多いですが、ホーゲヴェイも同様です。
ホーゲヴェイは24時間の見守りを必要とする認知症を持つ方だけが入所することができる日本におけるグループホームのような場所ですがその大きな特徴の1つとしてその“敷地の広さ”が挙げられます。1ヘクタール以上(東京ドームのグラウンド約8個分)もある敷地はまるで一つの街のように機能しており、敷地内には住居だけではなくスーパーやカフェ、レストラン、映画館などの施設もあります。
その他にも公園や道もしっかりと整備されているので、入居者は思い思いの過ごし方をすることができます。
施設内のスーパーや美容室などで働く人々も実はホーゲヴェイのスタッフ。スタッフの方々がどんな時でも入居者を見守っているため、安心して過ごすことができるようになっています。
入居の条件はあるの?費用は月に約70万円!?
ホーゲヴェイに入居することのできる条件はただ一つ、「24時間ケアを必要とする認知症であること」となっていて、現在は150人程の方々が暮らしています。入居者は6~7人でひとつの「ユニット(少人数のグループ)」を組むので、全部で24ユニットあります。
スタッフは医師や看護師、ソーシャルワーカーなどを含めて270人ほどおり、それ以外にもボランティアの方が140人います。スタッフは全員が認知症対応のトレーニングを受けています。
入居費用は月額5,800ユーロ(変動あり)で、日本円にして約70万。それだけ聞くと、非常に高額なように思えるかもしれません。しかし、オランダは社会保障が非常に充実しており、費用はその制度でほとんどが賄われます(一部自己負担)。とはいえ、この金額は他のオランダ国内の24時間見守りつき介護施設の中では安いほうなんだそうです。
入居者が基本的な生活をおくる棟内にはリビングルームとベッド付きの個室の他に、共用のキッチンとリビングルームがあります。日中は1棟に1人のケアワーカーが配置されていて、足りない部分はボランティアの方がフォローします。夜間はセンターに看護師が常駐しているので、センサーやナースコールに反応してきてくれる点も安心できますね。
ホーゲウェイはどのように誕生したのか
ホーゲヴェイの構想を最初に発案したのはオランダの老人ホームで働く女性ヘルパーたちでした。その創設者の一人であり、現在のホーゲヴェイの代表であるのがイヴォンヌ・ファン・アーメロンヘン氏です。
イヴォンヌ氏は自身が老人ホームで働きながらも「自分の親をここには入れたくない」と感じていました。イヴォンヌ氏を含む創設時のメンバーの両親はほとんどが認知症などを患ってなくなっており、“適切なケアを受けさせてあげられなかった”という後悔の念からホーゲヴェイのアイディアが生まれたのです。認知症の方を施設や病院に閉じ込めるのではなく、できるだけそれまでのライフスタイルを引き継いで暮らしていけることがどんな薬や治療よりも効果があると考えました。
実際、ホーゲヴェイに入居した方は薬の量が減り、食欲も増し、さらには寿命も長くなるというのだから驚きですね。
一人一人のライフスタイルに合わせて
ホーゲヴェイの特徴の1つに、これまでの自分のライフスタイルに合わせてユニットの種類を選べるというものがあります。
入居者の方も一人一人、生きてきた背景は異なっており、さらに宗教や文化によっても違いがあります。そこで、少しでもその人らしく生活ができるように7つのコンセプトで居住区が作られているのです。
7つのコンセプト
1.トラディショナル(オランダの文化や伝統を大切に暮らす人)
2.クリスチャン(キリスト教に深い信仰を持つ人)
3.アート(音楽や美術等の芸術を楽しみたい人)
4.セレブ(裕福な上流家庭で暮らしてきた人)
5.アットホーム(家庭生活を大切にし、家事を楽しんできた人)
6.インドネシア(旧オランダ領であるインドネシアで生活していた人や、インドネシア系の人)
7.アーバン(都会的な生活が好きで、例えばカフェやレストランでの食事を楽しみたい人)
ユニットによって装飾等も異なっていて、例えばアート棟は絵画などに囲まれ、常に音楽が流れています。一方セレブ棟では、豪華な家具やシャンデリアがそろっています。
これは、入居者の方が施設を「自分の家」と認識し、安心して快適に暮らすことができるような工夫と言えるでしょう。
このユニットは、入居前に家族や本人が答えるライフスタイルに関する40の項目の質問をもとに選択ができます。また、入居後に合わないと感じた場合は、ユニットをうつることも可能となっています。
「できないこと」ではなく、「できること」に目を向ける
認知症の方は、程度によっては違いますが自分でできることもたくさんあります。ホーゲヴェイで生活していく上で、入居者の方が「自分でできる」という意識を持つことはとても大切です。
例えば、ホーゲヴェイの中にある施設では、買い物は事前に渡されているカードで決済します。そのカードは利用の上限も決められているため、買いすぎてしまうという不安もありません。また、支払いをせずにお店を出ようとしてしまう方がいても登録されたナンバーで記録し、まとめて清算をすることもできます。
失敗をしてしまっても誰からも責められることはなく、結果としてその失敗経験から生まれる「できない」「分からない」という不安な感情もなくなるのです。
「できないこと」ではなく、「できること・できていること」に目をむけることは入居者の方の自己肯定感を高め、活き活きと生活していくことに繋がります。
一方で批判も…
一見、入居者の方にとってメリットばかりのように見えるホーゲヴェイの仕組みですが、一方で批判もあることは事実です。
その批判の中で挙げられているデメリットの1つとして、「地域との関わりがない」というものが挙げられます。
必要なものや施設はすべて敷地内にあり、敷地内ですべてが完結しているテーマパークのような形をとっていることで、本来あるはずの地域との交流がなく、必然と「地域共生」はできなくなるというのです。その他にもホーゲヴェイは住人たちをだましており、“夢の中”で生活しているようなものだという批判もあります。
全ての国でホーゲヴェイのような施設を作ることができるかというと、中々難しいという現実があります。例えば、日本のように国土が狭く、地震や津波などの自然災害が少なくない中で広大な敷地を確保し、認知症の方が安心して暮らすことができるようにするのはきっと簡単なことではないでしょう。
しかし、批判がある一方で多くの専門家はホーゲヴェイの制度を「非常に倫理的」と称しているため、介護の場の1つの選択肢としてホーゲヴェイのような施設があることはいいかもしれませんね。
まとめ
認知症の方が活き活きと暮らすことのできる“ホーゲヴェイ”。
現在、スイスでもホーゲヴェイの特徴を取り入れた施設が作られているそうです。
「施設」というとどうしても閉鎖的なイメージがありますが、自分のこれまでの暮らしを尊重しながらこれまでと変わらない生活を続けることができたら、おのずと心も身体も元気になってきそうですよね。