両親が要介護状態に陥ってしまう方の多くは、まだまだ働き盛りの世代。「立場が悪くなるのでは…」と職場に介護を打ち明けられないまま介護問題に直面してしまう、「隠れ介護」が抱えるリスクについて解説していきます。
目次
【1】周囲に介護を打ち明けられない「隠れ介護」とは
【2】隠れ介護になる前に…知っておきたい「介護休業」と「介護休暇」
【3】隠れ介護をさせない環境づくりを
周囲に介護を打ち明けられない「隠れ介護」とは
隠れ介護とは、職場に家族の介護をしていることを知らせずに介護を抱えこんでしまっている状態を指す言葉です。隠れ介護状態に陥る方は急増しており、今後、深刻な社会問題となっていくことはいうまでもありません。
なぜ?隠れ介護が起こる理由
ではいったいなぜ、隠れ介護状態に陥ってしまうのでしょうか。
重要なポストに就いていて、休業が難しいから
両親の介護がはじまる40代~50代は、働き盛りの世代でもあります。長年働き続けてきた会社で昇進し、管理職として勤めている方も多い世代です。
「重要なポストについているから抜けられない」
「会社に迷惑をかけられない」
「介護を打ち明けたら出世に響くのでは?」
そんな不安が、職場に家族の介護を打ち明けられない理由になっているようです。
頼れる兄弟姉妹がいないため介護負担が集中してしまう
また、兄弟姉妹が多かった昔の時代とは異なり、現在は一人っ子も多く、介護負担が集中してしまうことも両親の介護をひとりで抱えこまなければならなくなっている理由のひとつです。周囲に頼れる存在がないことから「自分がやるしかない」「けれど仕事は休めない」といったジレンマを抱えている方は、決して少なくないのが実情です。
介護休業・介護休暇制度の認知度が低いから
もしも家族の介護が必要になった場合、一定期間、会社を休業できる制度(介護休業制度・介護休暇制度)があります。とはいえ、こういった制度を利用する方はまだまだ少なく、社会全体での認知度も高くないため「制度があっても利用できない」という課題があります。
隠れ介護の先に待ち受けるのは…
隠れ介護に陥る方の多くは、有給を消化しながら施設探しに奔走したり、病院への送迎をしたり…と、無理やり介護にあたろうとします。有給消化だけで対応できればいいのですが、介護施設の入所待ちをしている「待機老人」問題も深刻化している昨今、そうスムーズにはいきません。症状が進行するにつれて介護負担も重くなり、ついには限界を迎え、介護離職という道を選ばざるを得ない…そんな状況に陥る方がとても多いのが実情です。
家族の介護を理由に介護離職を選ぶ方は多く、年間で10万人にも及びます。そしてその半数は「就職継続を希望していた」という統計も出ています。隠れ介護の先に待ち受けているのは「働き続けたいのに、働き続けられない状況」です。
また、働き盛りのエースともいえる人材が職場を離れるのは、会社にとっても大きな痛手となるでしょう。
隠れ介護になる前に…知っておきたい「介護休業」と「介護休暇」
もしも家族に介護が必要になったとき、育児休暇と同様に一定期間の介護休業を取得することが労働者の権利として認められています。 取得できる制度は「介護休業」と「介護休暇」の二種類です。
介護休業とは
介護休業とは、雇用期間1年以上の方で、介護が必要な要介護状態の家族1人につき、3回を上限として通算93日間の休暇を分割取得できる制度です。その間の給与は支給されませんが、雇用保険制度から手当てを受けることができます。手当ての額は、日額賃金の67%で、休んだ日数分支給を受けることができます。
介護休業の主な目的は、「介護と仕事の両立」です。休業中に、ケアマネジャーに相談し要介護認定をしてもらうほか、在宅なのか施設なのか、どのようなサービスにするか…といった選択をします。介護をはじめるための準備期間ともいえるでしょう。
介護休暇とは
介護休暇とは、雇用期間が6ヵ月以上で、介護が必要な要介護状態の家族1人につき、年に5日の休暇を取得できる制度です。労働時間の1/2である半日から取得可能で、その場合は年に10日休暇を取得できます。ただし、労働時間が4時間以内の場合は一日単位の休暇になります。給与は無給です。平成29年10月1日の改正で、介護休暇は半日対応ができるようになりました。通院やデイサービスの送迎、介護サービスの手続きを行うなど活用できそうです。
介護休業と介護休暇は別もので、違いは「取得可能な休暇日数」「休暇中の給付金の有無」「申請方法」です。
いずれも、正社員だけでなく、パートやアルバイト、派遣社員などの非正規雇用の方も取得することが可能です。
◆こちらも合わせてチェックしておきましょう。
利用率はわずか3.2%。介護休業は知っていても、取得する人は少ない
制度としては整っている介護休業・介護休暇制度ですが、実際に介護休業を取得している人は、ほんのわずかしかいません。いったいなぜ取得しないのでしょうか。特に男性に多い理由としては、「介護をしていることで、人事評価や昇進に影響するのではないか」と不安を感じてしまうこと。他には、「休まない」「長時間労働」が当然の中、忙しい会社に「休業を相談できない」などが挙げられます。
仕事と介護の両立には、会社の理解が不可欠
隠れ介護や介護離職を防ぐためには、まず会社が介護休業制度や介護休暇制度について理解を深めることが不可欠です。介護離職は、介護休業の制度を理解していない、長時間労働が常習化している会社に多く見受けられる傾向があります。
では、介護への理解を深めるために、会社はいったい何からスタートすればいいのでしょうか。厚生労働省は、会社が「従業員の仕事と介護の両立」をバックアップしていくためのマニュアル提供を行っています。従業員の介護離職対策がまだできていない会社は、ぜひ早めに取り組むよう心がけたいですね。
(厚生労働省:仕事と介護の両立支援実践マニュアル)
隠れ介護をさせない環境づくりを
まだまだ活用されているとはいいがたい介護休業(介護休暇)。会社に介護を打ち明けられず隠れ介護となってしまう状況は、確実に従業員を追い詰めていきます。今後ますます深刻化していく高齢化社会。介護に直面しても働き続けられる環境が整い、すべての労働者が、会社に隠れて介護をする必要がなくなる日がくるのを願うばかりです。