突然ですが、皆さんは「コミュニティオーガニゼーション」という援助技術をご存知ですか?社会福祉士の試験でも頻出の、ソーシャルワークにおいて欠かせない技術です。
今回は、こちらを提唱したJ.ロスマンの理論について解説していきます。
目次
- コミュニティオーガニゼーションとは?
- 慈善運動が由来!コミュニティオーガニゼーションの成り立ち
- コミュニティオーガニゼーションの各見解
- J.ロスマンのコミュニティオーガニゼーションの分類とは?
- 日本におけるコミュニティオーガニゼーション
- まとめ
コミュニティオーガニゼーションとは?
コミュニティオーガニゼーション(Community Organization:CO)とは、ケースワークやグループワークなどの社会福祉における援助技術の形成に関与した間接援助技術の1つです。
地域援助技術・地域組織化活動とも呼ばれ、1950年代から理論化や体型化が進められました。
この理論化においてM.ロスやJ.ロスマンが有名で広く知られています。
慈善運動が由来!コミュニティオーガニゼーションの成り立ち
コミュニティオーガニゼーションの起源は、19世紀後半のロンドンにおけるセツルメント運動や慈善組織化運動(Charity Organization Society:C.O.S)にあるとされています。
当時のイギリスでは、1834年制定の新救貧法が貧困者の公的救済制度として機能していました。
ただしこちらの新救貧法の適用水準は厳しく、最低賃金労働者よりも低い待遇で、劣悪な環境の「ワークハウス」に入所することが条件となるなど、救済制度としては不十分でした。
ちなみに、このワークハウスでの生活はきわめて過酷なものとして、チャールズ・ディッケンズの『オリヴァー・ツイスト』などの小説にも描かれています。
貧困者の公的救済が新救貧法によって行われる傍ら、民間で無秩序に行われるようになった慈善事業を組織化するために、1898年、『ロンドン慈善組織協会』が設立されました。
この慈善組織協会によって、公立・民間・個人の慈善事業の管理が統一され、組織体制が整えられていきました。
イギリスで始まったこの組織体制はその後アメリカにも伝わり、1909年にはアメリカ初の社会福祉協議会がピッツバーグとミルウォーキーで設立されました。
また、1913年にクリープランド慈善博愛連盟によって共同募金運動が組織化され、1918年にはニューヨーク州ロチェスター市での共同募金運動がコミュニティ・チェストとして広がったほか、共同募金運動と社会福祉協議会の組織として全米コミュニティオーガニゼーション協会が設立されました。
コミュニティオーガニゼーションの成り立ち
1910年代になると、慈善活動から派生した援助技術にコミュニティオーガニゼーションという名前が用いられ始め、1930年代末からは専門性を向上させるための活動が始まりました。
1939年にR.レインを委員長として開催された全米社会事業会議において、レイン報告と呼ばれる『ニード・資源調整説』が提出されたのをはじめとして、1947年のW.ニューステッターによる『インターグループワーク説』、1955年のM.ロスによる『地域組織化説』など、多種多様の見解によって、さまざまな定義が提唱されています。
コミュニティオーガニゼーションの各見解
1.R.レイン『ニード・資源調整説』
『ニード・資源調整説』は、コミュニティオーガニゼーションはニードと資源との調整を維持・促進するプロセスであるとするもので、コミュニティオーガニゼーションの体系化・科学概念化に貢献しました。
2.W.ニューステッター『インターグループワーク説』
『インターグループワーク説』は、地域社会の集団は、集団間での調整を行うことによって、地域の組織化を進めることができるとしたものです。
論の中では,
- 全般的な機能
- 集団に対する働きかけ
- インターグループのメンバーとしての各代表者への働きかけ
- 各所属集団の代表であるメンバーへの働きかけ
- インターグループ全体または部分への働きかけ
- 目標達成に関するインターグループ外の集団への働きかけ
- 関係機関への働きかけ
の7つの要素が固有の機能として提唱されています。
3.M.ロス『地域組織化説』
『地域組織化説』では、「問題解決そのものではなく、プロセスを重視して行動を起こすことが重要である」という理論が展開されています。
- 自己決定
- 地域社会固有の歩幅
- 地域から生まれた計画
- 地域社会の能力増強
- 改革への意欲
の5点が論の中で強調されています。
(参考文献:社会福祉士国家試験対策標準テキスト 2009年版)
J.ロスマンのコミュニティオーガニゼーションの分類とは?
コミュニティオーガニゼーションは、W.ニューステッター、M.ロスなどによって、さまざまな理論モデルが提唱されていますが、J.ロスマンは、既存の理論をベースとして、コミュニティオーガニゼーションを3つに分類し、1968年の全米ソーシャル・ワーク会議で発表しています。
J.ロスマンは、コミュニティオーガニゼーションを
- 小地域開発(地域開発)モデル(locality development)
- 社会計画(地域計画)モデル(social planning)
- ソーシャル・アクション(社会運動)モデル(social action)
の3点に分類しています。
1.小地域開発(地域開発)モデル(locality development)
小地域開発(地域開発)モデルとは、地域に住む住民が全員参加することによって、地域住民の自発性や主体性を高め、地域社会を組織化することで地域の問題を解決するというもの。
地域住民の参加や地域への帰属意識を養う過程を重要視していて、民主的な手続きや土着のリーダーシップの開発などが強調されたものとなっています。
2.社会計画(地域計画)モデル(social planning)
社会計画(地域計画)モデルは、社会問題を技術的な問題解決手法を用いて解決しようとするもので、有限の社会資源を効率的に配分することを目的としています。
主に行政府や地域の保健福祉協議会で用いられる手法であり、プランナーとして中立的な立場に立ち、支援を行います。
3.ソーシャル・アクション(社会運動)モデル
ソーシャルアクション(社会行動)モデルとは、地域社会の中で不利な立場にある人々が、自らの問題点を明確にして、明らかになった問題点を解決するためのモデルです。
地域社会の不平等を改善するために制度の改善や廃止を実践し、地域社会における権力構造の再編を援助するという内容です。
弱者の声を代弁し、マイノリティグループの問題を積極的に取り上げるものとして、公民権運動団体の実践などで見られるモデルとなっています。
J.ロスマンは、1987年にE.トロプマンとの共同執筆で、上記の3つの分類に
- ポリシー・プラクティス・モデル
- アドミニストレーション・モデル
の2つのモデルを加えた5つのモデルを提唱し、その後1995年には当初の3つのモデルを複合的に活用する混合モデルを提示しています。
参考文献:コミュニティ・オーガニゼーション理論生成の系譜(東洋大学紀要 第47-1号)、有斐閣『社会福祉計画』序章
日本におけるコミュニティオーガニゼーション
日本にコミュニティオーガニゼーションが紹介されたのは、1950年代に入ってからです。
橋本正巳や牧賢一らによって伝えられました。
アメリカの理論を参考に展開され、1984年には全国社会福祉協議会から日本初のコミュニティオーガニゼーションについての書籍となる『地域福祉計画―理論と方法―』が刊行されています。
この『地域福祉計画―理論と方法―』は、1981年に改正された社会福祉事業法に基づき作成されたものであり、特に計画活動の推進が強調されています。
また、コミュニティオーガニゼーションの理論は、1962年の『社会福祉協議会基本要項』、そして、1992年に改訂された『新・社会福祉協議会基本要項』に反映されています。
まとめ
今回はソーシャルワークを形成する基礎的な概念であるコミュニティオーガニゼーションの成り立ちと、その形成に深く寄与したJ.ロスマンの理論について解説していきました。
今回のように先人たちの活躍などの経緯を踏まえて整理すると、より理解が深まっていくのではないでしょうか?