病気や怪我が原因で、判断能力が不十分になった方の財産を守るための制度である“成年後見制度”。2017年5月には、成年後見制度の利用促進に関する法律が施行されるなど、政府も利用を進めている制度ですが、制度の利用に対し、問題点も指摘されています。いったいどのような問題点があるのか、詳しく迫ります。
目次
- 【1】成年後見制度におけるトラブルが増加中
- 【2】成年後見人が親族である事によるトラブル
- 【3】成年後見人に第三者を選出
- 1.後見制度支援信託を利用する
- 2.被後見人に第三者がなる事による問題点も
- 【4】成年後見制度の内容を理解して活用しよう
成年後見制度におけるトラブルが増加中
認知症、知的障害、精神障害などが原因で、判断能力が不十分な方を保護し、支援するために、2000年から始まった成年後見制度。
預貯金や不動産といった財産の管理、そして、必要な介護サービスや施設入所等の契約などを本人に代わって行ったり、悪徳業者から必要のない高額商品を買わされた場合、その契約を無効にすることができるなど、さまざまなサポートを行う制度であり、2016年12月末時点で20万人以上の方が利用するなど、利用者数も年々増加しています。
2017年5月には、成年後見制度の利用促進に関する法律が施行されるなど、政府も成年後見制度の利用を促していますが、この制度をめぐるトラブルも増加しています。
成年後見制度をめぐるトラブルというと、多くの方が耳にしたことがある可能性があるのが“後見人による不正使用”。
最高裁判所の調査によると、成年後見人制度において、2011年から2015年の5年間で、なんと213億万円にものぼる被害が報告されています。
また、財産の横領や権限の乱用等が原因で後見人を解任された件数も年々増加傾向となっています。
成年後見人が親族である事によるトラブル
成年後見制度が始まった2000年の時点では91%の割合を占めていた親族後見人ですが、2017年7月31日における親族後見人の割合は、42%まで減少しています。
親族後見人が減少した背景には、“単身世帯や身寄りがない高齢者が増えている” “親族後見人による不正が多いことから、後見人として第三者が選考される傾向にある”などの原因があるとされています。
被害金額については、2011年に日弁連が実施した後見人等の不祥事案件に関するアンケート調査によると、500万円未満が27%、500万円~1,000万円未満が23%、1,000万円~5,000万円未満41%、となっていて、1,000万円~5,000万円未満の被害があったと回答しているケースが最も大きな割合を占めています。
親族後見人の不正が生じる原因は、親族が後見人となる事によって、自分の財産と預かっている財産との区別がなくなってしまうということ。
“子”が“親”の後見人となった場合、“預かっている”という意識が薄く、ずさんな管理となってしまうケースが多いようです。
本来であれば、きちんと手続きをして“贈与”または“相続”をするべき財産を、使いこんでしまうことにより、他の親族との“争族”問題に発展するという可能性も。
また、当初はしっかり管理していたけれど、途中から管理がずさんになったというケース以外に、最初から被後見人の財産を目当てに、成年後見人になろうとしたというケースもあるようです。
成年後見人に第三者を選出
親族後見人による財産の不正使用を防ぐ手立てとして有効なのが、“成年後見人に第三者を選出する”ということ。
2017年7月31日の発表によると、弁護士や司法書士、社会福祉士といった第三者に後見人を任せているケースが、全体の65%を占める割合に上っています。
司法書士は2000年当初から成年後見制度に積極的に取り組んでいて、「公益社団法人成年後見センターリーガルサポート」という組織を構成しています。
親族間でのトラブルを避けるためにも、専門家に任せるという選択肢を選ぶのもおすすめです。
後見制度支援信託を利用する
財産を第三者に任せるということに抵抗感があるという方におすすめなのが“後見制度支援信託”。
これは、財産を金融機関等に“信託”することで、家庭裁判所の指示に基づいた金額が後見人の管理する口座に振り込まれるというものです。
後見人の口座に振り込まれるお金以外の預貯金は、銀行が管理してくれるシステムとなっているため、安心して任せることができるというメリットがあります。
2012年の制度開始時には98人しかいなかった利用者も、2015年には6,563人に上るなど、利用者も急増しています。
後見人による財産の不正使用を防止する目的で作られたこの制度は、被後見人が500万円以上の資産を有する場合、利用が促されています。
ただし、この制度のデメリットとして、本人の財産を本人のために使うのが難しくなったということがあげられています。
被後見人に第三者がなる事による問題点も
第三者を被後見人に選出することによって、親族間で発生するトラブルを避けることができますが、第三者を被後見人に選出することによって発生するトラブルもあります。
そのトラブルの原因は、被後見人になった第三者に対して、報酬を払う義務が生じるということ。
後見人になると、後見開始直後と、年に1回、家庭裁判所に財産状況や生活状況を報告する義務が発生します。
つまり、生活にかかった費用の領収書等を1年間保管しておく必要が生じるのですが、この作業を弁護士や司法書士などの第三者に任せた場合、費用がかかってしまうんです。
費用の目安は、管理する財産が5,000万円以下の場合、月1万円~2万円、5,000万円以上の場合、月2万5千円~3万円となっていますが、これ以外にも特別報酬が発生する場合があり、司法書士に後見人を依頼する場合、最低でも年間50万円程度の費用がかかるとされています。
この支出に関しては、成年後見制度を利用しなければかからなかった費用であるため、予想外の支出として不満を感じている方も多いようです。
家族・親族を候補者として後見人として申し立てたにもかかわらず、裁判所が第三者を後見人として選出されるケースが多いのも、トラブルを生む原因となっています。
また、弁護士や司法書士などの第三者が成年後見人となったにもかかわらず、財産の横領事件が発生するケースも起きています。
通常、親族が後見人となる場合、家庭裁判所から別途後見監督人を付けることがありますが、弁護士や司法書士が後見人となった場合、信頼を前提として、後見監督人が付かないことがあります。
後見監督人が付くと、後見人は後見監督人に対して3・4カ月に1回のペースで報告をする義務がありますが、後見監督人がいない場合、家庭裁判所への年1回の報告のみとなります。
その結果、監督が不十分となり、不正を見逃してしまうことがあるんです。
専門職による横領事件を無くすため、東京家庭裁判所は弁護士が成年後見人となった場合にも後見監督人を付けるなど、改善策に取り組んでいます。
成年後見制度の内容を理解して活用しよう
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を守る制度であり、単身または夫婦世帯の高齢者が増える高齢化社会において、ますます活用が期待される制度です。
最低でも年に1回は裁判所に報告する義務が生じること、第三者が介入することによって報酬が発生することなど、制度を利用することによって生じるデメリットをしっかり理解したうえで、成年後見制度を活用していけるようにしたいですね。