介護士の低賃金や人材不足など、暗いニュースが多い福祉業界。それでも大手企業を始め、次々に介護分野に進出してきます。介護士は給料が低いけど、管理者は儲かっているの?企業はおいしい思いをしているの?など、介護業界に進出してくる企業の思惑や現状に焦点を当てていきます。
目次
- 【1】高齢者市場ってどれくらいの大きさなの?
- 【2】新規参入の実態
- 【3】なぜ新規参入してくる?
- 【4】なぜ倒産が多いのか?
- 【5】介護ビジネスの未来はどうなる?
- 【6】福祉産業を細かく見ると
高齢者市場ってどれくらいの大きさなの?
高齢者介護事業は今後も成長が見込める有望な業界という認識を持っている方も多いと思います。2000年度に始まった介護保険の総費用は3.6兆円でしたが、2025年度には約21兆円まで膨らむと見られています。また、総務省が平成28年9月15日に発表した65歳以上の高齢者人口は3461万人となり、総人口1億2695万人に占める割合は27.3%となり過去最高の数字となりました。
上記の高齢者の数だけを見れば高齢者市場は順調に拡大しているといえます。
しかし、介護ビジネスの対象者である要介護認定者を見てみると、高齢者の約18%程度しかいません。65才以上の高齢者人口は増加していますが、必ずしもその増加数がそのまま企業にとっておいしいビジネス対象者になるというわけではなさそうです。
介護ビジネスの対象者となる要介護高齢者が増えているため、介護ビジネスに参入すれば成長市場の流れにそって、成功すると思いがちですが、実際は経営がうまく成り立たず、撤退する企業が多いというのが実情のようです。
新規参入の実態
東京商工リサーチが発表した「老人福祉・介護事業」の倒産状況(2017年1-12月)によりますと、2017年(1-12月)の「医療、福祉事業」の倒産は249件にもなり、これは介護保険法が施行された2000年以降で最多の数字になります。
このうち、業種別で最も多かったのが「老人福祉・介護事業」の111件(前年比2.7%増)でした。また、「医療,福祉事業」の負債総額も2年連続で前年を上回っていますが、全体では負債1億円未満の小・零細規模が84.7%を占め、小規模倒産が目立っています。
超高齢社会の成長産業である医療福祉業界ですが、介護士不足が慢性化し、経営が難航している企業も多く、生き残りに必死な状況です。
なぜ新規参入してくる?
介護ビジネスは、保険収入に依存しているために売上高、その中でも特に単価が固定されてしまいます。そのため、介護ビジネスは経営の自由度が「より低い」ビジネスということができます。
しかし、介護ビジネスの収入源は保険によってまかなわれているため、施設の収入としては「安定している」というイメージが、介護ビジネスを魅力的に見せる要因になっているとも考えられます。もちろん、企業は新規参入後、利益を上げることができる目論見を持って参入してくるのですが、参入後に介護ビジネスの難しさに直面するのです。
なぜ倒産が多いのか?
理由としては、
(1)3年ごとに報酬改定がある(現状、下がる一方)
(2) 利用者を確保できない(他施設との奪い合い)
(3)介護士不足
(4)法律等のルール順守が厳しい
などの理由です。このような状況でも介護ビジネスは日本において成長が期待できるといえるのでしょうか。
富裕層を対象とした大手資本の都心にある高級有料老人ホームの一部は、事業拡大をしています。高級有料老人ホームは、保険適用以外の部分において、大きく「上乗せの価格」の設定が可能のためです。しかし、ほとんどのサービス事業者は、中間層と低所得者層がビジネス対象であるため、国が定める介護報酬だけが収入源です。
高齢者増加により、「介護ビジネスは儲かる」という単純な考えは間違いのようです。
介護ビジネスの未来はどうなる?
介護ビジネスが必ずしも成功するわけではないという状況であったとしても、増加する高齢者に対して、介護施設の開設は止まる様子はありません。やはり、「介護ビジネスは儲かる」という認識を持つ人も多いかもしれません。
総務省の調査では、福祉業界は売上高営業利益率が8.4%となっており、総務省公開の資料では20の業界の中で、8番目の利益率となっています。「小売業/6.4%」「運輸業・郵便業/5.1%」「娯楽業/4.7%」「製造業/4.4%」などと比べても高く、参入するには悪くない業界であるように感じられます。
売上高営業利益率とは、営業活動が効率的に行われたかどうかをみるための指標で、高いほど良いとされます。介護における8.4%という数字は、100円のコストをかけた事業に対して約8円の儲けが出るということになります。
福祉産業を細かく見ると
高齢者に向けた市場は大きく分けて医療保険が適応される医療サービス、医薬品、医療器具等の分野の「医療・医薬産業」、介護保険が適応される在宅介護、介護施設等の「介護産業」、日常生活に関わる「生活産業」の3つがあります。
2007年で62.9兆円であった高齢者向けの市場規模は、2025年には101.3兆円にもなり、その中でも介護産業だけで15.2兆円になると見られています(みずほコーポレート銀行の調査より)。
高齢者向けの生活産業の市場規模においては、2007年の40.3兆円から2025年には51.1兆円へと成長する予測であり、市場規模から見ると高齢者関連ビジネスでは、一番大きな市場となります。
現在注目されているサービスが、高齢者向けの「お弁当宅配」です。
日々の買い物において、足腰が弱まり外出自体が厳しい高齢者やすぐ近くに買い物ができるお店がないなどの買い物を当たり前のようにすることが難しい高齢者も存在します。そうした状況に合わせて、塩分量、カロリー等の高齢者に合わせたお弁当をつくる「宅配」を利用する高齢者が増えています。一方で自炊をする高齢者が好んで利用するサービスにネットスーパー等のサービスもあります。
このような介護施設には入らずとも、自分で生活する高齢者が多数存在します。
そのような高齢者相手に行うビジネスを多くの企業が試行錯誤しながら、進めています。
それから、高齢者になっても元気な人はたくさんいます。自分の趣味や旅行などの余暇を楽しんで過ごす人も多いです。このようなアクティブに活動する「アクティブ高齢者」のニーズを満たすビジネスが企業に利潤をもたらしてくれるともいえます。
高齢者の増加は、必ずしも企業の利潤に直結しているとはいえないようです。
しかし、生活産業においては高齢者の増加は非常にチャンスであり、自社で開発してきた商品を高齢者用にアレンジするだけでビジネスチャンスとなります。生活産業においては高齢者向けビジネスがますます活性化することになると思われます。
しかし、高齢者の生活を直接支える介護産業では、新規参入したものの撤退するというケースも珍しくなく、経営の難しさが目立ちます。高齢者が増えることがそのままビジネスの拡大につながるわけではなく、これはどの産業でも同じく、弱者は排除され、強者だけが生き残るというものではないでしょうか。弱肉強食はビジネスの世界では当然なのですが、国から支払われる介護保険という公的なお金が介護業界の安定性を思わせるのでしょうか。現実はシビアですが、介護産業への新規参入は続いている状況です。