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若くして介護者に…早急な対応が求められる「ヤングケアラー問題」

若くして介護者に…早急な対応が求められる「ヤングケアラー問題」

若くして、親や祖父母の介護を担うことになる若者を「ヤングケアラー」といいます。未来の日本を支える若者に大きな影を落としている「ヤングケアラー問題」について考えていきましょう。



目次

  1. 介護負担を担う若者たち。ヤングケアラーの実態とは
  2. ヤングケアラーの問題点
  3. ヤングケアラー問題、どう解決する?外国の取り組み例
  4. もしもヤングケアラーになってしまったら。日本国内の相談窓口は?
  5. まずはヤングケアラーについて「知る」ことが大切



介護負担を担う若者たち。ヤングケアラーの実態とは

ヤングケアラー 悩む

「ヤングケアラー」とは、病気や障害を抱える家族のケアや援助、サポートを行う18歳未満の子どものことを指す言葉。

介護を必要とする家族の身体介護のほか、家事や兄弟の世話など、さまざまなケアを日常的に行っています。


2012年に総務省が発表した調査によると、家族を介護する15~29歳は約17万7千人にものぼり、この数は年々増加の傾向にあるといわれています。

本来であれば、青春を謳歌し、自分のために時間をつかっていたはずの若者たち。いったいなぜ、介護を担う当事者になってしまったのでしょうか。


「ヤングケアラー」が生まれる背景

ヤングケアラーが生まれる背景は家庭によって異なるものの、介護を担う人手の不足や、経済的な苦境が挙げられます。

頼れる身内がいないために、両親が働き、子どもが祖父母の介護を行う。金銭的な余裕がなく介護施設に入所させることができないため、子どもが在宅介護の当事者となる…。

行政を頼ろうとしても、介護を行っているのが未成年であるために取り合ってもらえないことも多く、どこに助けを求めればいいのかさえ知らずに介護を行っているケースも少なくありません。


日本では「家族の問題は家族で解決するべきだ」という考え方が根強く残っており、家族だけで介護を完結することを美徳だと考えている方が少なからずいます。

ですが、子どもたちが本来勤しむべき学業と両立ができるほど、介護は甘いものではありません。


ヤングケアラーの問題点

成長期真っ只中の若者が介護にあたるヤングケアラー。

ヤングケアラーには、いったいどのような問題があるのでしょうか。


キャリア形成に影響が生じてしまう

人は若いうちに将来のために勉強したり、さまざまな仕事を経験したり、スキルアップを図るものです。ですがヤングケアラーの場合、そういったところに時間をつかえずに目の前の介護の問題に取り組まなければなりません。

これは若者の成長に重大な影響をおよぼします。


もちろん、介護を行うことで人を想う心や誰かのために尽くす心がはぐくまれていくこともあるでしょうし、介護知識なども身についていくことでしょう。

ですが、はたしてそれは本当に本人のやりたいことでしょうか。

介護や家事をするために、将来やりたいことがあったり、学びたいことがあったり…といった希望が叶えられないケースは多く、家族の介護をきっかけに進学の道を断念する若者も少なからずいます。


必要な学習、必要な人生経験が出来なかった若者は、今後の人生においてどうやって生きていけばよいのでしょうか。


社会的に孤立しやすい

ヤングケアラーが抱える問題はそれだけではありません。

たとえば、孤立化しやすいこと。

介護や家事を優先しなければならないため、友人と交流する機会が減り、人間関係が希薄になってしまいやすいというのも特徴として挙げられます。

また、周囲に介護の当事者になっている同世代がいないため、誰にも理解してもらえない、共感を得られない状況で、たった一人で介護を背負っているケースも少なくありません。


ジレンマを抱えやすい

自分と同世代の子どもたちが友達と遊んだり、旅行に出かけたりしているのを横目に介護をするという状況は、ヤングケアラーたちの心に大きな影を落としています。

目の前の介護に追われる日々、そして、介護により自身のやりたいこと、学びたいことに時間を出せないという苦悩。


要介護者を施設に預ければ時間的な余裕は作れるかもしれませんが、経済的にひっ迫していることからヤングケアラーによる在宅介護を選んでいるケースが多いため、入居費用などの金銭的なことを考えると、現実的な選択肢ではありません。

たとえ介護保険制度を利用しても、十分な支援を受けることができないため、家族内で介護を抱え込んでしまうというのが実情です。


ヤングケアラー問題、どう解決する?外国の取り組み例

では、ヤングケアラー問題はどのように解決すればよいのでしょうか。海外の事例をピックアップして紹介します。


支援プログラムでバックアップ。イギリスの事例

ヤングケアラー問題で早期に対策を講じていたのが、イギリスです。

1980年代後半にはこの問題を取り上げ、1990年代には実態把握のために、全国調査を実施。

2001年には国政調査を行い、国としてこの問題を深刻にとらえ、支援方法を模索しています。


イギリスの場合、「ヤングケアラー」という言葉は、 身体的な病気や精神的な病気、障がい、薬物濫用などを抱える家族のケアや精神的なサポートをしている18歳未満の子どもや若者という定義づけがあります。

イギリスで2001年に行われた国勢調査では、ヤングケアラーの数は17万5000人にもおよぶと発表されています。

イギリスではヤングケアラーに対し、さまざまな支援プログラムが用意されています。

学校への働きかけ、教材や情報の提供、居場所・つどいの場づくり、子ども向けのWEBサイトの開設などです。


また、ヤングケアラーがアセスメントを受ける権利が保障されており、介護を一人で抱え込まないように配慮されています。

どんな福祉サービスも「子どもの過度なケア役割に依存してはいけない」という考え方が前提としてあるため、支援内容が多岐にわたっています。


もしもヤングケアラーになってしまったら。日本国内の相談窓口は?

現在の日本では、ヤングケアラー問題について社会的な認知が進んでおらず、社会問題という意識が低いというのが実情です。

そのため、公に相談できる環境が整っておらず、地域での集まりに参加し、相談する、当事者同士で話し合うといった最低限の活動しか行われていません。


ヤングケアラー問題は、日本の将来を担っていく若者が当事者となっている深刻な社会問題であり、本来であれば国を上げて取り組んでいかなければならない重要な課題です。

とはいえ、学校や行政を巻き込んで取り組まなければならないため、予算や人的余裕がないというのが実際のところなのかもしれません。

まずは地域ごとの集まりに参加し、同じような境遇にある方や過去にそのような経験をしてきた方に話を聞く、相談するといったことから、少しずつ取り組んでいる方が多いようです。


まずはヤングケアラーについて「知る」ことが大切

日本では、まだまだ危機感が薄いヤングケアラー問題。もっとも、他の社会問題と比較すると当事者になる可能性は低く、当事者意識を抱くことがないため、なかなか考えが及ばない課題かもしれません。

とはいえ、ヤングケアラーたちは、今後の日本を担っていく大切な人材です。個人の介護負担の問題ではなく、社会の活力の源となる優秀な若者が活かされないことは、国にとって大きな損失であるといえるでしょう。


まずは、ヤングケアラーとして介護を担っている若者たちについて、知ろうとする姿勢を持つことが大切です。同情や哀れみではなく、優秀な人材を逃さないためにも、若者の社会参加の機会を奪わずに済む方法を社会全体で模索していきたいところです。