高福祉国家として知られるスウェーデンの福祉を支える『コミューン』。日本の市町村に当たる存在と言われていますが、いったいどのような組織なのでしょうか?コミューンの役割やその歴史について迫ってみました。
目次
【1】スウェーデンは高齢化社会のさきがけ
【2】 国と地方自治体で機能を分担
【3】コミューンとは?
【4】コミューンの役割とは?
【5】スウェーデンの高齢者福祉の現状は?
【6】コミューンの財政支出の状況は?
【7】自治体間の格差を防ぐ仕組みも
【8】統合再編されてきたコミューンの歴史
1.社会福祉サービスの充実に欠かせないコミューン
スウェーデンの福祉組織『コミューン』
高福祉国家として知られるスウェーデンの福祉を支える『コミューン』。日本の市町村に当たる存在と言われていますが、いったいどのような組織なのでしょうか?コミューンの役割やその歴史について迫ってみました。
スウェーデンは高福祉国家として知られる北欧の国。
寝たきりの高齢者が少なく、幸福度も高いことで知られていますが、福祉サービスの分野において、『コミューン』が重要な役割を果たしているとされています。
『コミューン』とは、日本における市町村に該当する組織ですが、なぜ日本の市町村と異なり社会福祉サービスの充実に欠かせない組織となっているのか、詳しく解説していきます。
スウェーデンは高齢化社会のさきがけ
スウェーデンは、北欧のスカンジナビア半島に位置し、面積は日本の約1.2倍、人口990.3万人の国。第二次世界大戦に参戦しなかったことなどの要因により、世界に先駆けて高齢化社会を迎えた国としても知られています。
スウェーデンの高齢化率は、1990年にすでに18%に達していたとされています。同じ年の日本や欧米諸国の高齢化率が12~15%であったことを考えると、スウェーデンの高齢化率が高かったことがわかります。
1990年以降、出生率の改善や移民の流入などの要因によって、スウェーデンの高齢化率は緩やかな推移を遂げ、2015年の統計では19.9%という結果が得られています。一方、日本は1990年以降、出生率の減少や医療の発達による死亡率の低下などの要因により高齢化が進み、2015年の統計において高齢化率が26.7%となるなど、世界に例を見ないスピードで高齢化が進んでいます。(参考サイト:内閣府 高齢化の状況http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/zenbun/s1_1_5.html)
国と地方自治体で機能を分担
高齢化社会を、いち早く先に迎えたスウェーデンは、高負担・高福祉の国としても知られていますが、スウェーデンにおける国と地方自治体の関係は、日本における国と地方自治体の関係と異なり、役割分担が明確となっています。
例えば、国は年金や失業手当・妊婦手当・住宅手当・養育費補助といった経済的保障を、地方自治体は保健医療サービスや社会サービスの提供を行っているということがあげられます。
また、歳入も国が付加価値税や社会保険料が大半を占めているのに対し、地方自治体は住民税や補助金などとなっています。
コミューンとは?
スウェーデンの地方自治体には、スウェーデン語でKommun、英語でMunicipalityと表記されるコミューンと、スウェーデン語でLansdsting、英語でCountyと表記されるランスティングがあります。現在、スウェーデン国内には290のコミューンと21のランスティングがありますが、コミューンは日本における市町村に相当し、ランスティングは日本における都道府県に相当するとされています。つまり、コミューンはスウェーデンにおける地方行政の最小単位の組織なんです。
ランスティングは複数のコミューンを含む広域の自治体ですが、ここで注目したいのはランスティングとコミューンとが、対等な関係として存在するということ。
日本も制度上は都道府県と市町村は対等の関係とされていますが、担っている業務内容の関係などから、市町村は県の下位団体の組織として存在しているように見えています。つまり、ランスティングとコミューンの関係は、それぞれが日本における県や市町村に相当する組織といっても、指導監督の関係になりがちな日本のそれとは全く異なる組織図になっているといえます。
コミューンの役割とは?
スウェーデンでは、国・ランスティング・コミューンとそれぞれ組織によって担当する業務が異なり、それぞれの裁量で政策を行っています。
国・ランスティング・コミューンがそれぞれ担当している業務は、下記の表のようになっています。
簡単にまとめると、国は外交や防衛・経済政策を中心に行い、ランスティングは保健・医療の分野を、そして、コミューンは教育や高齢者福祉・障害者福祉を担当しています。
なお、基本的には独立して業務を行っているランスティングとコミューンですが、バスや電車等の公共交通に関しては、共同で業務を行っています。
スウェーデンの地方自治体は、日本の地方自治体に比べて公共サービスの提供に大きな役割を果たしているといえます。
スウェーデンの高齢者福祉の現状は?
介護サービスを受ける場合、本人または家族がコミューンに申請を行います。申請することによって、各コミューンのニーズ判定員が、必要な介護度の判定や、提供するサービス内容の決定をします。
この流れは日本と同じように見えますが、違いは介護度の基準。日本では全国一律の基準が設けられているのに対して、スウェーデンはコミューンごとで異なっているんです。その結果、介護度や受けることができるサービスの内容に、違いが出てくることもあります。
介護サービスの内容は、大きく分けて2つ。在宅サービスと施設サービスとに分けることができます。
在宅サービスには、住宅改造やデイサービス・ショートステイ・ホームヘルプサービスなどのサービスがあげられます。日本では、介護が必要になると施設に入るイメージが強い方も多いと思いますが、スウェーデンは在宅で自立した生活を送ることを重視している国。そのため、『特別な住宅』といわれる施設サービスを利用する方は、自宅で生活することが難しく24時間のケアが必要な高齢者に限られています。
介護サービスの利用は、コミューンの財源と利用者の自己負担によって賄われていますが、利用者負担の金額は、上限や各個人ごとに設定されている最低所得保障額によって異なります。
コミューンの財政支出の状況は?
担当する業務が異なっているスウェーデンの地方自治。歳出の割合にも特徴があります。
コミューンの財政支出についてみていきましょう。
まずは歳入についてですが、2010年の統計によると、地方税が歳入の66%を占め、国からの補助金である一般国庫補助金が15%、特別国庫補助金が15%となっています。
国からの補助金より、税収から成り立っていることがわかります。
一方の歳出はどうかというと、教育が42%、そして高齢者福祉が19%、障害者福祉が11%となっていて、コミューンの役割である教育や福祉サービスの割合が多くを占めています。
スウェーデンでは、憲法に当たる統治法によって、コミューンによる課税が認められています。コミューンの税率は、290あるそれぞれのコミューンによってさまざまですが、この税率は所得の多さに関わらず一律で、約20%程度となっています。
自治体間の格差を防ぐ仕組みも
自治体ごとに居住している人数やその年齢、所得等に違いがあるコミューン。地方税がそのまま自治体の収入の差となり、自治体間の格差にもつながるのでは?と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
自治体間での財源格差を解消するため、スウェーデンでは地方財政調整制度という仕組みが採られています。この制度によって、国が徴収した税金をランスティングやコミューンに再分配する垂直的財政調整と、ランスティング間、もしくはコミューン間で資金が潤沢な団体から資金が乏しい団体に分配する水平的財政調整が行われています。
日本の場合だと、国から地方自治体に対しての垂直的財政調整を行うものとして地方交付税がありますが、地方自治体間での水平的財政調整は行われていません。そのため、各自治体での財政力に差がある状態となっているということが言えます。
統合再編されてきたコミューンの歴史
現在、290あるコミューンですが、1930年には、2,532ものコミューンがありました。その当時の1コミューンの平均人口は2,417人。物々交換などを行う市場や田舎町などの団体が元となり、小さな団体から始まったとされています。
1946年に、コミューンは最低3,000人の住民がいることが必要であると議会で制定されたことにより、1952年に第1次合併が行われました。この合併によってコミューンの数は2500から1037に減少しています。その後、1962年から74年に行われた第2次合併によって278とさらに減少し、1コミューンの人口は平均29,413人となりました。
1974年以降、再編で分裂して、現在の290に増加しています。
社会福祉サービスの充実に欠かせないコミューン
日本における市町村に当たるコミューン。各コミューンごとに税率が異なるなど、独立した組織となっていますが、コミューンの違いによって提供するサービスが異なったりすることが無いように、各コミューン間でのバランスが取れるような仕組みとなっています。明確な役割分担によって、社会福祉サービスの提供を重要な責務として行っているコミューン。
高福祉国家として知られるスウェーデンにとって、要の存在であるとも言えます。