高齢者の犯罪が増えている、というニュースがよく見られるようになりました。これは法務省から公表された数字でも明らかになっている事実です。超高齢化社会が急速に進むことは、生産年齢人口の減少や社会保障費、介護負担の増大などのよく耳にする問題だけでなく、高齢者の検挙数の増加という現象も引き起こしています。
目次
- 【1】高齢者の検挙数を具体的な数字で見てみよう!
- 【2】なぜ高齢者の検挙が増加しているのかを数字から考える
- 【3】なんで止められず何度もやってしまうの?
- 【4】私たちにできること
日本は世界でも安全性の高い国といわれていますが、犯罪は全くゼロではありません。
ニュースでは毎日のように何らかの事件が報道され、少年犯罪に焦点をあてた特集などに心を痛める方も多くいらっしゃるかと思います。
もちろん若年層における犯罪を軽く考えてはいけませんが、犯罪件数や検挙件数が増え、検挙の多くを占めている世代は、実は高齢者世代なのです。
高齢者の検挙数を具体的な数字で見てみよう!
年齢層別検挙人員――――高齢者の検挙数は最も多い全体の約20%
下記グラフを見てください。
資料:法務省「平成29年版 犯罪白書」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html)
これを見ると、65歳以上の高齢者の検挙数は平成9年では最も少なかったのにも関わらず,平成20年までに著しく増加し、その後はおおむね横ばいで推移しています。
横ばいとはいっても、他の年齢層とは違って高止まりの状況で、平成28年には他の年齢層と比較して最も多い46,977人となり,平成9年の検挙人員12,818人の約3.7倍にまで増えています。
全体に占める割合としては21.8%となり、かなり多いといえます。
罪名別検挙人員――――窃盗が最も多く高齢者検挙数の約70%
高齢者の検挙について、詳しい罪名の割合と推移は下記となっています。
- 窃盗(高齢者検挙件数の70%以上)
最近はおおむね横ばいで推移しています。平成28年は33,979人であり、平成9年の約3.6倍となっています。
特に女性では,約90%が窃盗であり,しかも万引きによる者の割合が約80%と際立って高くなっているという特徴があります。
- 傷害及び暴行(高齢者検挙件数の約10%)
著しく増加しています。平成28年は両罪で5,823人であり,平成9年の約17.4倍にまで増えています。
- 重大事犯である強盗の検挙人員も平成9年から見ると増加傾向にあります。
資料:法務省「平成29年版 犯罪白書」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html)
資料:法務省「平成29年版 犯罪白書」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html)
再犯率――――高齢者入所受刑者の約70%が再犯
平成28年の高齢者の入所受刑者人員は平成9年と比べると,総数で約4.2倍と大きく増加しています。
再犯率(犯罪をし、刑務所で服役し出所した後に再度犯罪を起こしてしまう確率)も他の世代と比較して高齢者が多く、平成28年の再入者率は70.2%という大きな数字となっています。
資料:法務省「平成29年版 犯罪白書」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html)
また、再犯までの期間も高齢になるほど短くなる傾向があります。(【参考資料】5-2-3-10図参照)
なぜ高齢者の検挙が増加しているのかを数字から考える
今、高齢者ってどれくらいいるの?
これまで高齢者の検挙数について実際の数字を見てきましたが、そもそも総人口に占める高齢者の比率はどれくらいになっているのでしょうか。
平成29年版高齢社会白書によれば,平成28年10月1日現在の高齢者(65歳以上の者)の人口は,3,459万人となり,総人口に占める高齢者の比率は27.3%となっています。
超高齢社会(高齢者比率21%超)になった平成19年以降も上昇傾向が続いていることを考えると、高齢者の検挙数が増えている原因のひとつは、高齢化に伴う高齢者の数の増加といえます。
ですが、下記グラフを見ると、平成28年の高齢者の検挙人員の人口比が平成9年の約2.1倍になっていますので、理由はそれだけではなさそうです。
資料:法務省「平成29年版 犯罪白書」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html)
窃盗がこんなに多いのはなぜ?
高齢者の窃盗は、高齢者検挙数の70%以上を占めます。
その中でも万引きなどの罪の中でも軽微なものについては、孤独感やさみしさから犯してしまうとも言われています。
また、貧しさによる生活苦から日常品を万引きする高齢者もいます。
その背景としては、核家族化や町内会・村のコミュニティーの崩壊が進み、高齢者を支えるシステムが減ってしまったことで、経済的支援や生活全般の支援がされず、生活苦や孤独から精神的に不安定になっている高齢者が少なくないことがあげられます。
傷害及び暴行、強盗などの重大犯罪も、経済的困窮や孤独感から高齢者が精神的に不安定になり、自分の感情を抑制できず怒りのままに行動してしまうことが原因のひとつとなっているのではないでしょうか。
それ以外にも、認知症等の病気が原因の可能性も考えられます。
長く続けた仕事からの引退などの生活の変化、健康や金銭的に対する不安からうつ病になって思わぬ行動をしてしまったり、悪意はなくても認知能力が低下し、結果として万引きをしてしまうことがあるかもしれません。
認知症の中には万引きなどの反社会行為をしてしまう病気として「ピック病」というものもあります。
なんで止められず何度もやってしまうの?
再犯率を下げるためには、必要な社会的な支援を受けることが大切です。高齢者を取り囲む環境を変えていかなければ高齢者の犯罪や再犯を減少させることはできません。
ですが、入所受刑後という意味でも、超高齢化社会という意味でも、高齢者に対する社会的支援はまだ十分に確立されていないのが現状です。
刑務所では最低限の生活が保障されるので、何も失うものがないと感じている高齢者にとって罪を償う場所ではなくなってしまう可能性すら考えられます。
法務省の「平成29年版犯罪白書」には、再犯の原因として、
“立ち直りに様々な課題を抱える薬物依存者や犯罪をした高齢者・障害者等の多くが刑事司法と地域社会の狭間に陥り、必要な支援を受けられないまま再犯に及んでいる”
“家族などが少ない高齢者が生活に行き詰まり、再び犯行に及んでいる実態が浮かび上がっている。”
と記載されており、再犯防止のためには、犯罪や非行をした者が社会生活を営んでいく上で必要な住居、就労、福祉、保健、医療等に係る支援を確保し、あるいは犯罪等に影響のある依存症等を治療していくために、関係機関や民間団体等との連携したサポートが極めて重要であるとしています。
そんな状況を変えるため、再犯防止のための「薬物依存者・高齢犯罪者等の再犯防止緊急対策」(平成28年)や、法務省と厚生労働省などが連携し、出所後に介護などの適切な福祉サービスを斡旋する「特別調整」(平成21年)などが施策として実施され、平成28年12月には、「再犯の防止等の推進に関する法律」(「再犯防止推進法」)が成立し施行されました。
私たちにできること
高齢者の検挙数の増加には下記の様に色々な理由が考えられます。
- 高齢化による高齢者の増加
- 孤独感や生活苦
- 精神的な不安定さ
- 認知症などの病的状況
そして、この原因を取り除くためには高齢者に対するサポートが必要です。
私たちではどうしようもないこともありますが、私たちにもできることがあります。
介護という現場で、高齢者が生きがいを持って生活できる環境や、何でも相談できるような環境を身近に作ることは、孤独感や精神的な安定の手助けになります。
また、介護保険や年金などの社会保障についての知識を提供することで、経済的な助けになるかもしれません。
病気によって犯罪が起こる可能性がある、ということを知って注意しておくことも犯罪の防止対策といえるでしょう。
私たちも既に、もしくは将来的には高齢者の一員となります。
自分にできることから高齢者をサポートしていくことで、安心して皆が暮らせる社会を目指すことはとても大切なことではないでしょうか。
【参考資料】
資料:法務省「平成29年版 犯罪白書」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html)