EU離脱を決定したイギリスで起きた「医療クライシス」が日本でも起こると言われています。実際に、イギリスでは救急診察が混雑し、診察を待っている間に患者が死亡したというニュースも報道されています。医師が不足し、少子高齢化が加速する日本が直面する「医療クライシス」に迫ります。
目次
- 【1】35時間待たされて心臓停止、治療が受けられず死亡
- 【2】医師不足、高齢化、財政難、少子化という四重苦に日本は直面する
- 【3】すでに日本の医療クライシスは始まっている
- 【4】75歳以上の高齢者の一人当たりの医療費は年間90万円に
- 【5】日本が医療クライシスを乗り切るキーワードは「地域包括ケアシステム」
- 【6】まとめ
団塊の世代が一斉に後期高齢者になる2025年、高齢化が加速する日本では「医療クライシス」への直面は避けられないと言われています。
医療クライシスとは、財政難・少子化による働き手の減少と医師が不足し、その一方で患者(特に日本では高齢者)が増加し続け、医療行き渡らなくなる悲惨な状況を予測した言葉です。
まずは、イギリスで起きた医療クライシスを見てみましょう。
35時間待たされて心臓停止、治療が受けられず死亡
2016年6月23日に国民投票が行われ、イギリスのEU離脱が実現しました。
その影響を受け、税金で運営されていた国民医療サービスで働いてきた他のEU加盟国の医師や看護師は、EU離脱に否定的な感情を持っていた人も多く、一斉に退職しました。
それにより、一部地域の国民医療サービスで人手やベッドが不足しました。
それだけに留まらず、イングランド西部ウスターシャー州にある国民医療サービスの病院では、通路でストレッチャーにのせられていた患者2人が死亡しました。
1人は35時間待たされた上、心臓が停止。もう一人は動脈瘤を患っており、もう1人は最終的に治療を受けることができたものの、死亡しました。
この時、長い人で最長54時間、つまり2日以上待たされる事態となりました。
医師不足、高齢化、財政難、少子化という四重苦に日本は直面する
このイギリスで起きた悲惨な事態「医療クライシス」が日本にも迫っています。
ひと昔前の日本は、地方で高齢化が進んでいました。しかし、近年は団塊の世代が高齢者の枠に入り、都市部での高齢化が爆発的に進んで行きます。
これに伴って医療や介護のニーズも一気に増加することが見込まれていますが、日本はすでに財政難でそれもかなり深刻な状況です。
現在の医療保険給付額は42兆円ですが、2025年には総額54兆円に達する見込です。そんな大金はどこから捻出するのでしょうか?
その財政難の上に、少子化が著しく進み、働き手を十分に確保することができません。
高齢化、財政難、少子化という三重苦の上に、日本では医師が不足しています。
残念なことに、イギリスのように診察までに異常なまでの待ち時間を要する日が来るのはそう遠くないのです。
すでに日本の医療クライシスは始まっている
実際に、日本では以下のような状況が各地で始待っていいます。
・住んでいる地域に産婦人科がなくなり、出産のために離れた街に家を借りて住んでいる。もともと住んでいた地域では頼る医師がいない。
・市内の透析病院の医師が退職して病院がなくなり、数日おきに離れた病院まで通っている
・診療報酬が切り下げられ、経営が赤字に転落して病院を閉めざるを得なくなった
・もうすぐ後期高齢者になる親を入れてくれる介護施設が見つからない
2010年には280万人とされていた認知症の高齢者数ですが、2025年には470万人にも上ると予測されています。それと同時に確実に医療と介護が必要となることは明らかですが、医師と病院は減りゆく一方です。
日本全国で医療体制を存続させること自体が危ぶまれており、抜本的な改革が不可欠となっています。
75歳以上の高齢者の一人当たりの医療費は年間90万円に
1人当たりにかかる医療費についてみてみると、64歳までの方の場合、年間にかかる医療費の平均は約18万円であるのに対し、65歳から74歳までの方が年間で必要となる医療費の平均は約55万円、75歳以上の高齢者では、年間約90万円の医療費がかかるとされています。
つまり、年齢を重ねるとともに、かかる医療費が増え、後期高齢者では若年層の約5倍もの医療費が必要になります。
470万人に増える高齢者ひとりひとりが90万円を必要とするのが2025年。
この医療費を補うだけの財力を政府がどのようにして賄うのか、現実的な具体策はまだ見つかっていません。
日本が医療クライシスを乗り切るキーワードは「地域包括ケアシステム」
財政を少しでも圧迫しないように進められているのが「地域包括ケアシステム」です。
地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるように、包括的な支援・サービスの提供体制を構築するというものです。
つまりは、地域が中心となって、医療・介護・住まい・予防・生活支援を一体的に供給し、慣れた地域、慣れた家での在宅介護や在宅医療を地域の特性に応じて進めていくことを目的としています。
それにより、入院期間が短区なったり、在宅で生活しながら外来での治療を行っていくことも増えています。
しかし、この地域包括ケアシステムは2025年を目処に整備を進めている段階で、それぞれの地域で実現するにはまだまだ時間を要しそうです。
まとめ
今回は「医療クライシス」についてお話ししましたがいかがでしたか?
2025年には、65歳以上の高齢者数は3,657万人、75歳以上の高齢者数は2,179万人に上ると予測されています。
2025年における日本の総人口は1億2000万人と想定されているため、65歳以上、75歳以上の高齢者が全人口に占める割合は、それぞれ30.3%と18.1%、合わせると48.4%と人口の半分を占めることになります。
2025年を迎える前に日本が取り組むべき課題は明らかに山積みとなっています。