介護や福祉が充実している北欧。今回はその中でも、「幸福の国」と呼ばれ、高齢者が生き生きと暮らしているデンマークの介護について解説していきます。
目次
- どうして「幸福の国」なのか
- デンマークの高齢者介護システム
- 高齢者福祉の三原則って?
- 在宅介護?それとも高齢者住宅?
- 五感を刺激するデンマーク流認知症介護
- まとめ
皆さんはデンマークが「幸福の国」と呼ばれていることをご存じでしょうか?
そのように呼ばれる理由に、医療費・教育費・出産費が無料など、充実した社会福祉サービスが提供されていることが挙げられます。もちろん、介護もその中のひとつで、さまざまな介護サービスが受けられるようになっています。
今回は、デンマークの高齢者介護のシステムについてご紹介します。
どうして「幸福の国」なのか
「成熟社会」と呼ばれるデンマークの社会システムでは、非常に充実した社会福祉サービスが提供されています。
デンマークの介護について説明する前に、まず、デンマークがどのような社会システムをとっているのかを見ていきましょう。
社会福祉サービスを税金で提供
デンマークは日本とは違い、税率が非常に高くなっています。
その内訳として、所得税が55%、消費税が25%、さらに車の購入には280%もの税金がかかります。
実に、年収の3分の1以上が税金に持っていかれるのです。
一見して驚くような税率ですが、社会福祉に関わる財源をすべて税金で賄っているところに、国民の「幸福度」の秘密があります。
医療費は基本的に無料
デンマークの医療は原則的に地域が提供しています。
住民にはそれぞれ「家庭医」と呼ばれるホームドクターがいて、緊急時以外はほとんどの場合最初はホームドクターの診療を受けます。
必要に応じてホームドクターは紹介状を書いてくれますので、重い病気や詳しい検査が必要な場合は高度な医療を提供する「病院」にかかることができます。
そんなデンマークの医療制度において最も注目すべき点は、医療費は原則として税金で賄われるために“無料”というところです。
出産・教育費無料、充実した育児制度
デンマークでは出産、大学卒業までの教育費が無料です。
さらに、デンマークには子ども手当もあり、年齢に応じて一定のお金が支給されます。
充実した年金制度と高齢者福祉
高齢者への福祉も充実しているデンマークの年金には、「国民年金」「労働市場付加年金」「早期退職年金」の3種類があります。
中でも国民年金は、公平性を保つため、収入や家族構成などさまざまな年金所得者の状況に応じて、毎年調整され、配給されています。
国民の公平性を保つ、合理的なシステムといえそうです。
デンマークの高齢者介護システム
続いて、デンマークの高齢者介護システムについて詳しく説明していきます。
施設介護中心から在宅介護中心へ
デンマークは1960年代に高齢化率が10%を超えました。
その当時、日本の特別養護老人ホームに近い介護施設である「プライエム」が多数建設され、大規模化していきました。
しかし、1980年代に定められた「高齢者三原則」に基づいて、デンマークの介護における大きな改革が起き、介護の場が「介護施設」から「在宅ケア」に方向転換されることとなったのです。
高齢者福祉の三原則って?
デンマークでは、1979〜1982年の間に、党派を超えた高齢者問題委員会が設置されています。この最後の年である1982年に、世界的に有名な「高齢者福祉の三原則」が打ち出されました。
まず、その「高齢者福祉の三原則」について簡単に説明します。
生活の継続性に関する原則
自分が今まで暮らしてきた生活を断続せずに、継続性をもって生活するという原則です。
歳をとっても介護施設で暮らすのではなく、住み慣れた自分の家で暮らし続けることを支援する原則となっており、“在宅介護”と密接に関わりあっています。
自己決定の原則
高齢者になり、介護が必要になると、様々な物事を家族や周囲の人間が決めてしまうことが多くあります。
しかし、自分がどのような状態となっても、生き方や暮らし方について自分で決めていくべきであるという考え方、それが自己決定の原則です。
つまり、高齢者の自己決定を尊重し、周りもそれを支えていくということを示しています。
残存能力活用の原則
これは、高齢者が「できないこと」を探すのではなく、「できること」を評価して活かしていくという考え方です。これは、高齢者が自立した生活を送っていくためには非常に重要なことなのです。
在宅介護?それとも高齢者住宅?
デンマークでは、高齢者はできる限り自宅、それが難しくなった場合でも自分に適した高齢者住宅で最後まで過ごすことができるようなシステムとなっています。
24時間体制でサポートする「在宅介護」
在宅介護サービスは、市の高齢者福祉センターが担い、家庭医制度との連携をとりながら、 24 時間の在宅サービスを受けられるようになっています。
日本では訪問介護の場合、「要介護認定」や「介護の利用制限」が時にはネックとなることがありますが、デンマークでは要介護認定や利用制限がなく「必要とする人が、必要なときに」無料で使うことができます。
在宅でのケアを中心とする人が多いため、訪問介護も日本に比べて充実しています。
1回の訪問時間は5~20分と非常に短く設定されていますが、その代わり、1日に訪問する回数も多くなっています。
また、夜間のケアも標準となっているため、緊急時の対応も万全です。
24時間体制ということで、介護職員への負担も大きいため、人材不足などの問題が懸念されますが、デンマークにおいてそれは全く心配ありません。
デンマークでは、介護職員や医師の多くは公務員のため待遇は安定しており、低賃金などによる人材不足などの問題はないのです。
生活を継続させるための高齢者住宅
高齢者施設と聞くと、日本ではまだ大部屋のところも少なくありません。
しかしデンマークでは、1952 年に制定された養老院(現在の高齢者施設の始まり)のガイドラインにおいて、高齢者施設の部屋は全て個室と決められています。
高齢者福祉の三原則にもあるように、自分のこれまでの生活を継続させるためには個人のプライバシーを尊重しなければならないという姿勢が反映されています。
現在、高齢者住宅の居住設置基準は、日本は原則 25 平米であるのに対し、 デンマークでは65 平米とされています。
そこで生活をしていくことが前提のため、各部屋にシャワー・トイレ・台所が完備されていることも必要になります。
入居時に、利用者たちは皆それぞれ自分が慣れ親しんだものや家具を持ち込み、自分の空間を作り上げることができるのです。
そうすることで今までの生活の継続性を図り、最後まで自宅で過ごしたいという気持ちもある程度叶えることができます。
五感を刺激するデンマーク流認知症介護
現在デンマークでは、高齢者住宅と同時にケア付き住宅である「認知症ユニット」の建設に力を入れているといいます。
認知症ユニットでは、認知症に特化した生活環境の中で手厚い介護を行うことを一般的なシステムとしています。
認知症の方にとって、生活空間の変化は非常に重要な意味を持ちます。
環境が変化することによってストレスを受け、利用者の混乱や症状の悪化を招いたりします。
そのため、デンマークでは生活空間の環境づくりにある独自の方法を取り入れているのです。
五感への刺激で常に安心感を
認知症の方にとって、五感を刺激することはとても有効です。
具体的には、生活空間を記憶や五感に刺激を与えるモノで満たすことによって、高齢者に常に安心感を抱かせるというものです。
たとえば、昔の家具や調度品をそろえたり、トイレを旧式のものに変えることで、認知症の方が出来る限り認識しやすい環境を作り出すための内装面の工夫などがなされています。
利用者にとって懐かしい品物をそろえたり、季節のものや収穫物などを飾ることも効果があります。
さらに、もう一つ面白いものとして照明やミラーボールを利用して、視覚的に幻想的な空間を作り出すというものもあります。
懐かしいもので思い出を回想してもらったり、景色やにおい、触れることを通し、生活環境から五感を通じて「安心感」と「脳へのいい刺激」を高めていきます。
まとめ
今回は、デンマークの高齢者介護について説明をしてみました。
デンマークでは高齢者が自己決定をして残存能力を活かしながら、いきいきと生活を続けていっています。
日本も高齢社会と言われていますが、今一度「介護のあり方」について目を向けてみることも重要かもしれません。