「組織のしがらみから解放されて、もっと利用者さまに寄り添いたい」「自分のペースで理想のケアマネジメントを追求したい」――。そんな想いから、居宅介護支援事業所の独立・立ち上げを検討するケアマネジャーの方が増えています。
しかし、いざ独立を視野に入れると、「厳しい人員基準を一人でクリアできるのか?」「独立して本当に食べていけるのか?」という現実的な不安が次々と押し寄せてくるものです。志はあっても、複雑な制度や収益の仕組みを正しく理解していなければ、安定した運営は望めません。
本記事では、独立成功の絶対条件となる人員基準の基礎知識を整理し、黒字化を達成するための具体的な収益モデル、そして自由度と効率を両立させるこれからの働き方を徹底解説します。
これから「自分の事業所」という一歩を踏み出すための、実践的なガイドとしてご活用ください。
【 目 次 】
1. 居宅介護支援事業所の立ち上げに必要な「人員基準」と指定申請の必須要件
2. 独立後の売上を左右する「収益モデル」のシミュレーションと加算戦略
3. ケアマネジャーの役割を再定義する「効率的な働き方」とICT活用のすすめ
まとめ:居宅介護支援事業所の独立成功に向けた確かな準備と収益設計のポイント
1. 居宅介護支援事業所の立ち上げに必要な「人員基準」と指定申請の必須要件
居宅介護支援事業所を立ち上げる際、最初に立ちはだかる壁が「人員基準」です。これを満たさなければ、自治体から指定(開業許可)を受けることはできません。
特に近年は、管理者の資格要件が厳格化されている一方で、ICT活用による柔軟な配置も認められるようになっています。まずは、独立に向けた「守りの要件」を整理しましょう。
立ち上げに必須となる人員配置のルール
独立型であっても、法人併設型であっても、以下の人員を揃える必要があります。
- 管理者(1名)
原則として「専従・常勤」である必要があります。最大の注意点は、2021年度より**主任ケアマネジャー(主任介護支援専門員)**の配置が完全義務化されたことです。自身が主任資格を持っていない場合は、有資格者を雇用するか、管理者として迎える必要があります。
- ケアマネジャー(1名以上)
実務を担う介護支援専門員です。管理者と兼務することも可能ですが、常勤のケアマネジャーが少なくとも1名は確保されていなければなりません。
- 事務員(任意)
配置義務はありませんが、ケアマネジャーが本来の業務に専念し、件数を効率的にこなすためには、事務スタッフの存在が収益性に大きく貢献します。
指定申請をパスするための「法人格」と「設備」
人員以外にも、事業所として認められるために以下の2つの基盤が必要です。
1. 法人格の取得
居宅介護支援事業所は個人では経営できません。株式会社、合同会社、NPO法人、一般社団法人など、必ず「法人」を設立する必要があります。定款の事業目的に「介護保険法に基づく居宅介護支援事業」が含まれているか、必ず確認しましょう。
2. 設備基準のクリア
「どこで働くか」も審査対象です。事務室には机やキャビネットを置く十分なスペースが必要です。また、利用者のプライバシーを守るための相談スペース(パーテーション等での区切り)や、個人情報を守るための鍵付き書庫の設置が義務付けられています。
担当件数の上限と効率化の視点
通常、ケアマネジャー1人あたりが担当できる利用者数は「35名」までが標準ですが、現在はICTの活用(チャットツールの導入など)や事務員の配置といった条件を満たせば、1人あたり39名まで担当することが可能です。
立ち上げ時からこの「効率化」を前提としたツール選びを行うことが、独立後の収益を安定させる重要なポイントとなります。
2. 独立後の売上を左右する『収益モデル』のシミュレーションと加算戦略
独立を考えるケアマネジャーにとって、最大の関心事は「どれくらいの収益が見込めるのか」という点でしょう。居宅介護支援事業所は、利用者からの自己負担がない100%公定価格のビジネスであるため、売上の予測が立てやすい一方で、収益の「天井」が見えやすいという特徴があります。
ここでは、安定した経営を維持するための具体的な数字と、利益率を高めるための戦略を詳しく見ていきましょう。
居宅介護支援の基本的な報酬構造
居宅介護支援の売上は、主に「居宅介護支援費」と「各種加算」の合計で決まります。
基本報酬は要介護度に関わらず一定ですが、担当する利用者の人数が売上のベースとなります。現在、ケアマネジャー1人あたりが担当できる標準的な件数は35件程度ですが、適切なICT活用や事務員の配置を行うことで「39件」まで報酬の減額を受けずに担当することが可能です。
仮にケアマネジャー1人で39件を担当し、1件あたりの単価が加算込みで平均1万5,000円から1万8,000円程度とすると、月間の総売上は概ね60万円〜70万円前後が目安となります。ここから家賃、ソフト代、通信費、車両維持費、そして自身の役員報酬(給与)などを差し引いた額が利益となります。
収益最大化の鍵を握る「特定事業所加算」
小規模な事業所が収益性を高めるために最も重要なのが「特定事業所加算」の取得です。
これは、質の高いケアマネジメントを提供し、24時間の連絡体制や困難事例への対応、定期的な会議・研修を実施している事業所に与えられるボーナスのような手当です。
この加算を取得できるかどうかで、1件あたりの単価が数千円単位で変わります。
- 特定事業所加算(I)〜(III): 重い要件をクリアするほど加算額は大きくなります。
- 特定事業所加算(A): 2021年度に新設された、少人数の事業所でも取得しやすい区分です。
一人ケアマネジャーでの独立であっても、他事業所との連携や主任ケアマネジャーの配置といった条件を整え、この加算を確実に取得することが、経営を安定させる最短ルートとなります。
「加算」と「効率」のバランス戦略
売上を伸ばすためには件数を増やすことが手っ取り早いですが、件数を詰め込みすぎると一件あたりの質が低下し、加算の要件を満たせなくなるリスクがあります。
賢い経営モデルは、件数を「35〜39件」の適正範囲に抑えつつ、特定事業所加算や「入院時情報連携加算」「退院・退所加算」といった、日々の業務の中で発生する加算をこまめに、かつ確実に算定していくスタイルです。
また、移動時間や書類作成時間をどれだけ短縮できるかといった「稼働効率」も、実質的な利益率(時給換算の収益)に直結します。
3. ケアマネジャーの役割を再定義する『効率的な働き方』とICT活用のすすめ
独立型の居宅介護支援事業所において、最大の敵は「膨大な事務作業」と「移動時間」です。組織に属していた頃と同じやり方のままでは、件数が増えるほど自分の首を絞めることになりかねません。
独立して成功しているケアマネジャーは、ICT(情報通信技術)を駆使して「移動の合間に仕事を完結させる」スタイルを確立しています。ここでは、自由な働き方を手に入れるための具体的な戦略を解説します。
1. 「紙とFAX」からの脱却とチャットツールの活用
これまでのケアマネジャー業務といえば、電話連絡とFAX送信に多くの時間を取られていました。しかし、独立型ではこの「待ち時間」を最小限にする必要があります。
サービス事業所との連携にビジネスチャット(LINE WORKSやSlackなど)を導入することで、言った言わないのトラブルを防ぎつつ、スピーディーな情報共有が可能になります。電話のために事務所へ戻る必要がなくなるだけで、1日の稼働効率は劇的に向上します。
2. タブレット入力による「その場で完結」する実務
アセスメントやモニタリングの記録を、事務所に戻ってからPCで入力していませんか?この「二度手間」をなくすのが、タブレット端末とクラウド型介護ソフトの活用です。
利用者の自宅で聞き取った内容をその場で入力し、署名も電子サインでいただく。これにより、帰社後の事務作業がほぼゼロになります。空いた時間を別の訪問に充てるか、あるいは早めに業務を切り上げて自己研鑽やリフレッシュに充てるかは、独立したあなた次第です。
3. 事務員配置による「役割の再定義」
第1項でも触れましたが、事務スタッフを短時間でも雇用することで、働き方は大きく変わります。
給付管理、書類の整理、市役所への提出代行といった「ケアマネジャーの資格がなくてもできる仕事」を切り出すことで、あなたは本来の役割である「相談援助」と「地域連携」に100%の力を注げるようになります。
これは単なる負担軽減ではなく、より専門的な困難事例の引き受けや、加算算定に必要な「質の高い記録」を作成するための、攻めの投資と言えます。
まとめ:居宅介護支援事業所の独立成功に向けた確かな準備と収益設計のポイント
居宅介護支援事業所の独立は、正しい知識と準備さえあれば、ケアマネジャーにとって「理想のキャリア」を叶える最高の手段となります。
- 人員基準: 主任ケアマネジャーを軸とした法令遵守を徹底する。
- 収益モデル: 特定事業所加算を確実に算定し、安定した単価を確保する。
- 働き方: ICTを武器にして事務負担を削り、利用者と向き合う時間を最大化する。
この3つの柱をバランスよく整えることが、持続可能な事業所運営の鍵となります。まずは1年後の理想のスケジュールと収益をイメージし、最初の一歩を踏み出してみましょう。
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