場所や暮らし方など、生活環境が変化することで起こる“リロケーションダメージ”。これは環境の変化が起こることで誰にでも起こり得る症状ですが、特に高齢者や認知症の方は不安や混乱が高まってしまう可能性が強くなっています。
目次
- リロケーションダメージとは
- 増える“介護移住”が原因になることも
- どうしてリロケーションダメージが起こるの?
- リロケーションダメージが起こると
- リロケーションダメージの予防・対処法は?
- まとめ
リロケーションダメージとは
「リロケーションダメージ」という言葉を聞いたことはありますか?これは、「移り住みの害」とも呼ばれ、生活環境の変化がストレスとなり、心身の健康を害してしまうことを指しています。
高齢者だけではなく、すべての方がリロケーションダメージを受ける可能性があります。例えば、進学や就職などを機に住み慣れた故郷から離れた場所で暮らし始めた、海外に長期留学をしている…そのような方は「ホームシック」を1度は経験したことがあるのではないでしょうか。リロケーションダメージは、このホームシックととてもよく似ています。
中でも、このリロケーションダメージによる影響を受けやすくなっているのが高齢者の方や認知症の方です。
先に述べたように、誰にでも起こる可能性のあるリロケーションダメージですが、特に認知症高齢者に症状が出やすく、不安や混乱から認知症やうつを悪化させてしまうリスクがあると考えられています。また、これまで認知症の症状がなかった人でも、リロケーションダメージがきっかけで認知症を発症してしまうこともあるのです。
増える“介護移住”が原因になることも
現在、日本の世帯の約6割が核家族と言われています。そのような状況の中で、進学や就職、結婚などでそれまで暮らしていた土地を離れ、そのまま両親と別々に地域に暮らし続ける方も増えています。しかし、自分の親が高齢になると介護などのことも考えて親と同居したり、親を自分の家の近くに呼び寄せるケースも少なくありません。
東京を中心とする都市部では、特別養護老人ホームなどを中心とする施設の整備が十分にされておらず、入居待ちの方が非常に多くいるという現状があります。しかし、人工の多い都市部は地価が高いということもあり、新しい施設を建設することが難しいという現状があります。
そのため、都市部に暮らす高齢者の方の中には、遠方の施設や隣接する県での入居を求めて転居(介護移住)を行う方が多くいらっしゃいます。
住み慣れた場所から馴染みのない場所に転居して環境が大きく変化することでリロケーションダメージは起こりやすくなっているため、現在問題となっています。
では、これからどのようにしてリロケーションダメージが起こるのかについて詳しくご説明します。
どうしてリロケーションダメージが起こるの?
例えば、施設に入居していたり入院をしていると規則正しい生活になる一方で、基本的な食事や就寝時間が決められ、自宅で暮らすような自由は認められないことが多いです。また、なじみのないスタッフに1日中管理されているような気持ちを覚えます。
環境が変わったことによる居心地の悪さに加え、これまでとは違う生活パターン、人間関係など様々なストレスが加わり、不安や混乱などの精神症状をきたしやすくなります。
認知症の方は新しいことを覚えるのがあまり得意ではありません。そのため、いくら被介護者の方を想って施設入居などを勧めても、以前の住まいと変わってしまうと自分の住む場所であることが認識・理解できずに「家に帰る!」と騒いだり徘徊してしまう原因となるのです。
また、施設入居や入院だけではなく、家を大幅にリフォームすることでもリロケーションダメージが起こる可能性があるので気を付けましょう。
リロケーションダメージが起こると
リロケーションダメージで最も問題となるのが“せん妄”です。せん妄とは、病気や薬の影響、環境の変化などによって意識障害が起こり、混乱した状態のことを指しています。現在の時間や今自分がどこにいるのかがわからなくなったり、幻覚を見たり、興奮するといった精神症状が出ます。また、時には人格が変わってしまったように感じることもあるでしょう。
リロケーションダメージの予防・対処法は?
高齢者の方だけでなく、これまでの生活を終えて自分の全く知らない土地で知らない方とともに新しい生活を始めるということには誰しも大きな不安がつきまとうものです。その中でも特に高齢者の方は長い人生の中で確率された生活環境や人間関係をリセットして新しい環境に飛び込むことはとても勇気がいるし、負担の大きいことです。
では、新しい環境で生活をする際に、リロケーションダメージを予防・もしくはリロケーションダメージが起きてしまった場合の対策として何をすればよいのでしょうか。
環境は徐々に変化させる
リロケーションダメージが起こる大きな原因は、急激な環境の変化です。そのため、施設に入所する際にも徐々に環境を変化させることが重要です。施設に入所する場合はいきなりではなく、事前に数日間のショートステイの期間を設けたり、子どもと同居する場合はまずは週末だけなど、新しい環境に慣れる時間を作ってあげることはリロケーションダメージの予防として効果的です。
また、新しい環境になる際に自分が使い慣れているものを持っていくことでも安心・リラックスをすることができます。
「自分の居場所」を作ってあげる
新しい環境になるとこれまでと生活パターンが違ったり、顔見知りがほぼいないことで自分の居場所を見つけにくくなり、そのことがストレスとなってしまうことが多くあります。そのため、心理的に落ち着くことのできる「自分の居場所」を作ってあげることが大切です。
施設の場合は個室であったり、自宅の場合は自分の部屋などがあることで自分の場所で落ち着いて過ごすことができることも多くあります。
一方、共有スペースしかない場合は常に誰かがいるため心が休まる時間がなく、精神的なストレスが増加してしまう原因となるので注意が必要です。
その他にも、新しい環境に早く慣れることができるように顔なじみの施設のスタッフを作ったり、家族など周りの人間が寄り添って心理的な負担を取り除くことも重要です。そうすることで、被介護者の方は「自分はここに居てもいいんだ」と思うことができ、不安感や孤立感を抱えることなく安心して生活をすることができます。
まとめ
介護の現場では知っている方も多い「リロケーションダメージ」ですが、高齢者が増え続けている今、その問題はさらに深刻になってくることが予想されます。そのまま住み慣れた家や地域で暮らしていけることがベストですが、介護の手が足りなかったり、環境が整っていなかったりと中々難しいのが現状です。
そのため、新しい場所で生活を始める際にも被介護者の方ができるだけこれまで通りに安心して暮らしていくことができるようなサポートを周りの方々が積極的にしていくなどの配慮をしていきたいものですね。