「家庭で面倒をみる」から「プロの手を借りる」へ。3年後ごとに見直される介護保険制度の歴史を紐解きましょう。
目次
- 【1】介護保険制度はもともとは「措置制度」だった
- 【2】介護保険制度は自治体の財政圧迫を解消するために始まった
- 【3】「介護予防」への意識が高まった2006年の改正
- 【4】高齢者が住み慣れた街で介護を受けるための2012年の改定
- 【5】人材確保のための具体的な処遇が実施された2015年の改正
- 【6】まとめ
介護はもともと「家庭で面倒をみる」という意識が強く、祖父母の世話を娘や息子、息子の嫁など、家族が介護することが一昔前までは普通でした。
しかし、高齢者の数が年々増加し、若年層の減少から、「プロの手を借りる」という考え方へ少しずつシフトしていきました。
そして、2000年4月に「高齢者を社会全体で支える」という理念をもって、ついに介護保険制度が誕生しました。
今回は2000年から始まった介護保険制度がこの18年でどのように変化したのかを見ていきましょう。
介護保険制度はもともとは「措置制度」だった
2000年以前は、「措置制度」と呼ばれる行政サービスが介護の中心でした。
福祉サービスを必要としている人が、きちんと利用条件を満たしていて、本当にサービスが必要なのかを自治体が判断し、利用者が希望しているサービスの利用可否を決定するという制度です。
つまり、利用者本人にサービスの選択の自由はなく「行政が権限を持ち、福祉サービスを提供を決定する」というものです。
介護保険制度は自治体の財政圧迫を解消するために始まった
高齢者福祉において、この措置制度は完全になくなったわけではなく、養護老人ホームへの入所や、児童福祉施設への入所においては措置制度が用いられています。
しかし、高齢者が増え続け、それによって福祉費が著しく増加し、自治体の財政がどんどん圧迫されていったため、確実な財源を確保するために「介護保険」が制度化されるようになったのです。
介護保険制度の大きな変化は2006年、2012年、2015年
家族だけで介護をすることが難しくなり、自治体も財源を十分に確保するのが困難になったことから始まった介護保険制度ですが、3年ごとに改定が行われています。
注目すべきは2006年、2012年、2015年の改定でしょう。
それでは、実際にどのように変わっていったのか、それぞれの改定内容を見ていきましょう。
「介護予防」への意識が高まった2006年の改正
2000年に制定されてから、まず最初の大きな見直しが行われたのは6年後の2006年だと言われています。
介護予防が制度内に
2006年の改定で、最も大きな改定と言われているのが「介護予防・地域支え合い事業」が介護保険内に組み込まれたことです。
もともと「介護予防・地域支え合い事業」は介護保険外で、補助事業として行われていましたが、制度に組み込まれたことで、日本全体で介護予防の重要性を認識した年になりました。
施設給付の見直し・医療と介護の連携強化
そのほかには、在宅支援の強化や医療と介護の連携を図ることを目的に、地域密着型サービスの創設や地域包括支援センターの創設が取り決められ、居住費用や食費の見直しも行われました。
居住費や食費を保険給付の対象外(全額自己負担)として改め、その一方で、低所得者に対しては費用負担を軽減する「特定入所者介護サービス費」を新設しました。
介護の重度化を防止
また、要支援の対象者を増やしつつ、介護報酬を引き下げるために「要介護1」を「要介護1」と「要支援2」に分けるなども実施されました。この境界を流動的にすることによって、より早い段階で効果的なサービスを提供し、介護の重度化を防止することが狙いです。
高齢者が住み慣れた街で介護を受けるための2012年の改定
2012年は、介護保険制度が施行されてから10年以上が経過し、その10年でサービスの利用者数が約3倍になりました。
重度の要介護者や医療ニーズの高い高齢者が増え、介護する側の家族が独身や高齢者など、介護力が低い世帯も同時に増え、この介護制度の整備が早急に必要とされる環境に変わったこと、そして、高齢者を支える介護人材の確保が大きな課題となりました。
住み慣れた街で介護を受ける「地域包括ケアシステム」の推進
そんな2012年の改定において、最も注目されるべきは「地域包括ケアシステム」の推進です。高齢者が地域で自立した生活を営むことを目的に、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスを提供するものです。
より地域密着型の介護を目指し、たくさんの高齢者が住み慣れた町で安心して介護が受けられるような環境を作ることが、各自治体に義務付けられた改正とも言えます。
介護人材を安定的に確保し、よりよいサービスの提供を目指す
常に人材不足が叫ばれている介護業界ですが、2012年にはより質の高いサービス提供をしつつ介護職に受持する人材を安定的に確保するために、介護福祉士などの一定の教育を受けた介護職員による痰(タン)の吸引等の実施を可能にしました。それまでは決まられた人しか痰の吸引ができず、処置が遅れるなどの問題が懸念されていました。
また、介護サービス事業所における労働法規の遵守を徹底し、介護職員がより働きやすくなる環境の整備に注力しました。
巡回や訪問介護など、万が一にも備える
2012年は、このほかにも、要介護のレベルが高い人が単身で住んでいる場合の万が一に備えて、定期的に巡回を行ったり、必要に応じて訪問介護を実施する「随時対応型訪問介護看護や複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)」が創設されました。
人材確保のための具体的な処遇が実施された2015年の改正
毎回、状況に応じて様々な点で見直しが行われる介護保険制度ですが、2015年は次の5つの改定に注目が集まりました。
1人当たり1万2千円!さらなる介護職の処遇改善
介護業界で働く人がより働きやすい環境を整えるため、1人当たり12,000円の「処遇改善手当」が支給されることになったのは2015年です。
介護職員の低賃金と離職率の高さは常に問題視されてきましたが、ここでついにより具体的な処置が実施さてました。
また、介護福祉士の資格の取得方法にも見直しが入り、介護福祉士の資格取得はこれまで以上に難しくなりました。
一定以上の所得がある人は自己負担が1割から2割へ
2015年8月から、第1号被保険者で一定以上の所得所がある人は介護保険サービス利用時の自己負担が1割から2割へ変更になりました。
「一定以上の所得者」は所得金額で年間160万円(単身で年金収入のみなら年収280万円)と定義されていますが、1割負担と2割負担の境界線は、実際のところ少しややこしくなっています。
ますます敷居が高くなった特養への入居
特別養護老人ホームへの入居は、要介護1以上であれば入居可能となっていましたが、2015年の改定が実施されてからは要介護3以上でなければ入居できない、とハードルが高くなりました。
これはあくまでも「原則として要介護3以上」とされており、要介護1や2の人が絶対に入居できないということではありませんが、特別養護老人ホームへの入居希望者が多く、待機している人もたくさんいるため、現実的には要介護1や2の人の入居はかなり厳しいものでしょう。
すでに入居している要介護1や2の人は問題なく入居が継続できるようになっています。
地域レベルでの認知症対策を義務化
認知症患者が増え続けていることから「認知症初期集中支援推進事業」、「認知症地域支援推進員設置事業」、「認知症ケア向上推進事業」の3事業を各市区町村で2018年までにスタートさせることを義務付けられました。
市区町村など、地域レベルでの認知症患者をサポートしていく対策が求められてます。
介護業界と医療業界の連携を密に
介護の現場で医療知識が必要とされることは多々あります。
これまで連携が十分に取れていなかった介護業界と医療業界が、地域包括ケアシステム推進を通して、密に連携を取ることが必要という考えに変わりました。
その結果、地域医療・介護連携推進事業が推進されることになり、具体的には以下の8つの項目が挙げられています。
1、地域の医療・介護サービス資源の把握
2、在宅医療・介護連携の課題の抽出と対応の協議
3、在宅医療・介護連携支援センター(仮称)の運営等
4、在宅医療・介護サービス等の情報の共有支援
5、在宅医療・介護関係者の研修
6、24時間365日の在宅医療・介護サービス提供体制の構築
7、地域住民への普及啓発
8、二次医療圏内・関係市町村の連携
介護予防が必要な人、簡単な介護のサポートが必要な人、24時間の見守りが必要な介護レベルの高い人など、それぞれの人に合った介護サービスの提供を地域レベルで取り組んでいくことが重要視されていることがこの改定から見て取れますね。
まとめ
今回は介護保険制度の歴史についてご紹介しましたが、いかがでしたか?
今年、2018年もまた介護保険制度の改定が行われる年です。これからも、誰もが平等により質の高い介護サービスを受けられることを目的とし、3年ごとに改定され続けます。
高齢者層が著しく増加し、支える若年層が減りゆく日本で、介護保険制度を見直すことは急務です。十分な財源確保、質の良いサービスの提供、そして介護職員への処遇改善など、問題は山積みですが1日でも早く改善され、問題が解決に近づくことに期待したいですね。