経済成長が続くなか物価が上昇するインフレの影響を受けて、労働者の生活水準を維持するために最低賃金の引き上げが必要だという風潮が強くなってきました。
2024年7月厚生労働省は今年度の最低賃金を全国平均で50円引き上げることを決定し(過去最高の引き上げ幅)1054円となりました。
しかし、介護分野は事業者の収益環境が厳しくなるなどの懸念点がいくつかみられます。
今回は介護・福祉業界では過去最大の引き上げにより、どのような影響が出るのか解説していきましょう。
目次
そもそも最低賃金とは
最低賃金はどうやって改正される?
2024年の引き上げとその影響
そもそも最低賃金とは
最低賃金とは、労働者が労働に対して受け取ることが保証されている最低限の賃金額を指します。
雇用者はこの最低賃金を下回る賃金を支払うことができず、もし違反すると法律により罰せられることがあるのです。
日本では、最低賃金は下記2種類の際最低賃金があります。
■地域別最低賃金
都道府県ごとに定められている最低賃金のことです。
毎年見直され、地域の経済状況・物価・労働者の生活水準などを考慮して決定されます。
■特定最低賃金
特定の産業や業種に従事する労働者に適用される最低賃金のことです。
地域別最低賃金がすべての業種に共通して適用されるのに対し、特定最低賃金は特定の産業(例: 製造業、建設業、運輸業など)や職種に特化して設定されています。
特定最低賃金は地域別最低賃金を上回ることが一般的です。
その産業における労働の特殊性や、熟練度、危険性などが考慮されて設定されます。
例えば製造業においては、機械オペレーターや組み立て工など特定の技能が求められる職種に対して特定最低賃金が定められることがあります。
最低賃金はどうやって改正される?
ではどのように最低賃金は改正されるのでしょうか。
最低賃金の改正は、労働政策審議会という厚生労働省の諮問機関が中心となって決定されます。
改正されるプロセスは以下の5段階があります。
①労働政策審議会の審議
労働政策審議会には、労働者側(労働組合など)、使用者側(企業など)、そして公益代表(学識者など)の3つの代表が含まれます。
この審議会で各代表が意見を述べ、最低賃金の改正に関する議論が行われます。
②各都道府県の最低賃金審議会での審議
労働政策審議会での審議を基に、各都道府県の最低賃金審議会が個別の審議を行います。
地域の経済状況・物価水準・労働市場の状況などが考慮され、地域ごとの最低賃金が決定されます。
③中央最低賃金審議会の答申
各都道府県の審議結果をもとに、中央最低賃金審議会が最終的な答申をまとめ厚生労働大臣に提出をします。
④厚生労働大臣の決定と告示
厚生労働大臣が中央最低賃金審議会の答申を受け、全国と各都道府県ごとの最低賃金を決定し告示をします。
⑤施行
最低賃金は通常、告示の数ヶ月後に施行され企業はその最低賃金を遵守する義務を負うことになります。
2024年の引き上げとその影響
■2024年の引き上げとは
では、2024年の最低賃金の引き上げとはどのようなものだったのでしょうか?
2024年7月厚生労働省の小委員会は今年度の最低賃金の目安を全国平均で1,054円とすることを決めました。
これまでの最低賃金は全国平均で1004円となっていたため、50円の引き上げとなり、この引き上げは過去最高額となります。
■介護業界への影響とは
最低賃金の過去最大の引き上げは、介護・福祉の現場にどんな影響をもたらすのでしょうか。
最低賃金が上がれば、分野を問わず全体の賃金水準の上昇につながります。
介護職員にとっても朗報で、更なる賃上げにつながることが考えられます。
一方で介護事業所にとっては収益環境が厳しくなる側面もあると言われています。
時給で働き始めて間もない人を含め、最低賃金で働いている介護職員は少なくない環境です。
既に一定のキャリアを積んでいる人の賃金も、最低賃金の引き上げに合わせて上げないと全体の給与体系がいびつになってしまいます。
このため、最低賃金の引き上げは人件費の大幅な上昇を招き、介護・障害福祉サービス事業者の収益環境は今以上に厳しくなるでしょう。