「見当識障害」という言葉を聞いたことはありますか?医療現場でよく使われる言葉だな、聞いたことはあるけど実際どういう障害なのかわからない、という人も多いと思います。
見当識障害については介護現場で働く人にとって、切っても切り離せない障害になります。
本記事では介護現場における、特に認知症による見当識障害についてご紹介していきます。
目次
見当識障害とは
認知症の中核症状となる症状
接し方と対応方法
見当識障害とは
見当識障害は、認知症の中核症状(脳の神経細胞が障がいされたことによって直接起こる症状)のひとつで、時間や場所など、自分が置かれている状況を正確に認識できなくなることです。
これは認知機能が低下した人であれば誰にでも出現する症候群です。
近所の良く知っている道で迷子になってしまうことや、真夏にセーターを着て暖房を入れてしまう等、子供の顔を忘れてしまったり、一般の方からすると想像できないようなことが起こる場合もあります。
見当識障害は「時間」→「場所」→「人間関係」へ症状が変化するという特徴があります。
①「時間」に関する見当識障害
時間の感覚が薄れると現在時刻などがわからなくなり、長時間待つことや予定に合わせて準備することが難しくなっていきます。
②「場所」に関する見当識障害
方向感覚が薄れてきます。
③「人間関係」の見当識障害
そして症状がかなり進行すると、自分の年齢や人の生死に関する記憶、周囲の人との関係がわからなくなります。
人も間違えることが多くなり、自分の弟を兄と間違えたり、鏡に映る自分の姿が自分だとわからなくなったりすることもあります。
認知症の中核症状となる症状
認知症で、脳の細胞が死ぬ、脳の働きが低下することによって直接的に起こる障害を中核症状といい、認知症の本質的な症状であり、認知症になれば誰にでも現れます。
具体的には以下の5つがあります。
①記憶障害
認知症の症状の中で、早い段階から現れるのが記憶障害です。
体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう障害で、時間の経過と共に症状が進行します。
例:散歩をしたこと自体を忘れる
②見当識障害
見当識障害とは、自分が置かれている状況が把握できず、「いつ・どこ」といったことや、自分と他人との関係性が分からなくなる障害です。
まず時間の認識が乏しくなり、今日の年月日や曜日、時間、季節感を間違えやすくなります。
例:自宅のお風呂の場所が分からなくなる
③理解・判断力障害
物事の理解に時間がかかるようになり、適切な判断を下すことが困難になります。
例:携帯ロックの操作ができなくなる
④実行機能障害
物事を論理的に考え、計画を立てて効率的に実行することが困難になる障害です。
例:一つずつの仕事はできても、同時進行ができなくなる。
⑤失語・失認・失行
失語とは、言葉を司る脳の部分が正常に機能せず、聞く・話す・読む・書くといった言葉に関する機能がうまく使えない状態をいいます。
失認は、視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚が正常に働かなくなります。
失行とは、身体機能的には問題ないにも関わらず、今までの生活で身に着けていた動作が行えない状態や、道具の使い方が分からなくなる場合をいいます。
例:洋服を着ることや、ホッチキスの使い方が分からないなどがあります。
接し方と対応方法
見当識障害が発覚したときに大事なことは、家族や周囲の人々はできる限り本人の自尊心を傷つけないように丁寧に対応することです。
症状を示す本人が大切にしたいものを理解することや、伝えようとすることに耳を傾け、焦らずに話を合わせて感情を理解した上で働きかけるようにするのが良いとされています。
まだ自分でできることも多くある状態で、決して本人の可能性を妨げることなく、できる限りの自立を目指しながらケアを提供することも重要です。
そのほかに、環境の急激な変化を避けるように環境を整えたり、刃物やガラスなどの危険物を目につく場所に置かない、トイレの場所に目印などを付けて分かりやすくするなどといった対策も有効です。
また、見当識障害に対するリハビリの1つとしてリアリティオリエンテーションが有効といわれています。
リアリティオリエンテーションは名前や年齢、時間、場所、日時、人物の名や物の名称など、繰り返し質問することで現実への認識を深めることを目的としています。
こういった工夫を行いながら介護を行い尊厳を保った介護の提供を心がけるようにしましょう。