厚生労働省は一部の介護老人保健施設などで多床室のご利用さまの負担を2025年8月から引き上げる方針を示しました。
介護老人保健施設(老健)や介護医療院の多床室について、室料の自己負担化を2025年度中に導入する見込みです。
一定の所得がある入所者に1カ月当たり8,000円相当の室料を負担してもらう理由などについて、解説していきます。
目次
これまでの老健多床室の相場
2025年8月から8千円の値上げと、その理由
対象者の数と、実質負担
これまでの老健多床室の相場
公的な介護保険施設の1つである老健では、入居一時金などの初期費用は不要が基本的なルールです。
その代わりに入所後に月額費用として2つの負担があります。
それは「介護サービス費」と「生活費(居住費・食費・その他日常生活費)」の負担です。
■介護サービス費
・介護サービス費:食事介助や入浴介助などは要介護度が高くなるほど負担額が増加します。
・職員の配置や体制、サービスなどに応じて、「サービス提供体制強化加算」「経口維持加算」などの加算料金が発生、自己負担額は、収入に応じて加算を含む介護サービス費の1割~3割です。
■生活費
・住居費:居住費は、施設や居室のタイプによって異なり、多床室、従来型個室、ユニット型個室の順に料金が高くなります。
・食費:3食で日額1,445円(月額43,350円)という基準額があります。
その他日常生活費は施設ごとに通信費や理美容代などの料金が設定されており、入所者は利用した分だけ実費を負担します。
では、今後こうした設定が値上げの方針になっている理由を見ていきましょう。
2025年8月から8千円の値上げと、その理由。
まず、この多床室の室料自己負担問題が出てきた背景には、介護保険が置かれた現状があります。
介護保険制度に基づく給付総額は2000年の制度発足年度は3.6兆円でしたが、2019年度には11.4兆円(地域支援事業も含む)と約3倍まで拡大しています。
この間に65 歳以上が支払う全国平均の月額保険料も第1期介護保険事業計画(2000~2002年)の2,911円から第8期(2021~2023年)の6,014円まで倍増しています。
この2つの現実を考え併せれば、今後も進展していく高齢化の中で、今のままの給付を続ければ、保険料はさらに上がることが予想されます。
それでも介護保険の持続性が担保できるとは言い難い状況で、このため出てきた対応策の1つが今回の老健の多床室の室料負担です。
特養については、生活の場で事実上終の棲家となっている観点から、2015年度から多床室入所者の室料負担がスタートしました。
老健と介護医療院は、特養とはそもそも位置づけは別ですが、近年ではこれら施設でも在所・在院日数が長期化し、事実上の生活の場となりつつあるのではないかとの指摘があり、今回の多床室の室料負担となりました。
具体的には2025年8月から一部の介護老人保健施設などで多床室のご利用さまの負担を2025年8月から引き上げる方針を示した。室料として月8千円を新たに徴収し始める。
対象者の数と、実質負担
今回の値上げの対象となるのは、在宅復帰機能の「強化型」「加算型」などに該当しない「その他型」「療養型」になります。
居室面積が1人当たり8平方メートル以上を確保している場合が対象となります。
「その他型」「療養型」の多床室にいるご利用さまのうち、およそ4,000人が負担増の対象になると見込まれています。
しかし、光熱費や食費の補助(補足給付)を受けている低所得の入所者の負担は増やさないようにすると言われています。
実質の負担額は月約8,000円の室料を負担することになります。
在宅で暮らす高齢者との負担の公平性を確保することや、制度の持続可能性を高めたりする狙いがあると言われています。
今回の室料負担が実際に発生した場合に考えられるマイナス面は、医療必要度の高い人の一部が病院にとどまり続ける、すなわち介護保険創設の目的でもある社会的入院の解消に逆行する動きが再度顕在化してくる可能性があります。
今後もこの問題に注目していきましょう。