入居には数年待ちの特養ですが、介護士不足により、空きがでている話は周知の事実になりつつあります。今回はベッドに空きがあっても、高齢者を受け入れられない高齢者施設の事情についてまとめていきます。
目次
- 【1】特養入居待機者の現状
- 【2】実は空きがあった特養
- 1.介護士を確保できない問題
- 【3】多床室とユニット型の問題
- 【4】ユニット型による職員の負担
- 1. 多床室は効率的に業務が行える
- 【5】地域で異なる需給状況
- 【6】まとめ
特養入居待機者の現状
特別養護老人ホーム(以下、「特養」と記載)に高齢者の親を入れたいけど、数年単位で順番待ちをしなければならないと言われたという話はよく聞く話です。
特養は民間の有料老人ホームに比べて、月々の費用が安く、人気の入居施設になっています。一般的な有料老人ホームでは月々の費用が20万前後以上になることも多く、また入居に際して支払う入居一時金も数百万円に上る場合があります。
高額な費用が発生する有料老人ホームでは入居できない高齢者が大勢います。そのため、安価で入居できる特養が人気というわけです。特養に入居する場合、月々の費用は約10万円で入居に際しての一時金もありません。
そのため、大勢の待機者を発生させています。2016年4月時点での待機者は36万人6000人との結果が出ています。日本では36万人以上の待機者がいるため、実際に特養に入ろうとしても、数十、数百人待ちと言われてしまうのです。
実は空きがあった特養
入居希望者が殺到している特養は当然、施設内の利用者が定員いっぱいに入居していると考えがちですが、実際のところは違うようです。
実際は空きベッドがいくつもあり、使用していないスペースも結構あるというのが実態のようです。
どうしてそのような状態になっているのでしょうか。それには大きく2つの問題があるようです。
介護士を確保できない問題
一番の問題は職員の数を確保できないことが大きいです。施設では利用者の数に対し、雇用すべき職員の数が決められています。職員を一定数確保できなければ、施設を満床にすることはできないのです。
介護士の人手不足は介護業界の問題点として挙げられることが多いですが、一向に改善の兆しを見せていません。多くの施設では介護士の人員不足の問題を抱えているため、利用者を受け入れようにも受け入れることができない状況があるのです。
人材が集まらない要因としては、給与が低い、業務が過酷、夜勤やシフト制勤務で不規則な生活を強いられるなどが問題として挙げられています。
こういった長期にわたる問題に対して、介護士の待遇改善、研修等を通してのスキルアップ、ストレスケアなど様々な改善が行われていますが、具体的な効果はでていません。
特に待遇改善に関しては人材を集めるほどの効果はなく、元々の少ない給与に対しての若干の待遇改善のため、あまり効果がありません。
多床室とユニット型の問題
元々、特養では利用者4人が同室で生活する多床室が主流でした。しかし、入居者のプライバシー配慮の風潮から厚生労働省は特養の個室化を推進しました。
そのため、2001年以降に設立された特養では個室が積極的に設けられることになりました。それはユニット型と呼ばれるもので、個室に入居する10名程度の利用者を一つの生活の単位として、ケアをしていくというやり方です。
ユニット型は食事、入浴もユニットごとに行われます。利用者は一人でいたい場合は個室に入って過ごすことが可能であり、他利用者と交流したい時は共有スペースに出れば、団欒の時間を過ごすこともできます。
利用者にとっては快適な環境であるユニット型も費用の面では課題があります。多床室では月々10万円ほどの利用料もユニット型にすると月々14~15万円ほどと値上がりしてしまいます。そうなると利用者の負担が増えてしまうため、ユニット型には入所できず、多床室のベットが空くまで入居待ちという状況になってしまうわけです。
ユニット型による職員の負担
特養に入居できないのは、ユニット型の導入により月々の利用費が増えたことで入居が進まないという要因がありましたが、ユニット型の弊害は職員にも降りかかってきています。
多床室は効率的に業務が行える
ユニット型では個室が利用者ごとに割り当てられているので、利用者の部屋に入って業務を行なうことになります。
そのため、利用者の元に行くために一部屋ごとに出向かなければならず、一室に4名がいる多床室に比べて効率的ではありません。多床室は利用者のプライバシーが守られないデメリットはありますが、介護士にとっては限られた人員で多くの利用者を介護することができるというメリットがあります。
ユニット型の導入による職員の負担増は、離職に拍車をかけてしまうことにもなります。利用者のプライバシーを守る理想によりユニット型を推進した厚労省とユニット型導入により業務の負担が増えてしまった施設との間でズレが発生し、それが現在の入居待ちを生んだ一つの要因となっています。
地域で異なる需給状況
特養の需要は地域により差が激しく、日本全国全ての地域で需要があるわけではありません。もちろん、多くの地域で需要はありますが、供給が需要を上回っている地域も存在します。全国に特養は9700ほど存在していますが、秋田などは高齢者の数がピークに達しており、特養に空きが出ている状態です。
必要な地域に必要な分の設備を建設できれば良いのですが、現状では必要のないところにも整備計画が進められています。もちろん、東京23区で特養に入居しようと思ったら、人気が高く300人待ちなどと告げられることもあります。
それだけ地域によって、特養需要の差が激しく、需要のある地域では待機者の数が多く、需要のない地域では待機者がゼロかつ、むしろ施設に空きが出始めているという状況なのです。
必要な地域に集中的に特養を建設するべきですが、そうではない計画によって現在の状況が生まれてしまいました。
まとめ
様々な実態を見てみると、特養に入居待ちの人が多いけれども、実際は施設のベッドに空きがあるという状況も納得いきます。需要と供給の視点から見ると、過剰供給が要因となって空き施設が存在してしまっていたり、特養の費用が高いと感じるが故に安い部屋の順番待ちをしていたことが分かります。
単純に特養が人気ですぐに入居できないというよりも、人口過密地域で供給が追い付かないことに加え、費用面での足踏み待機者や、職員の離職により人材不足に陥った施設が利用者の受け入れをストップせざるを得ない実態が待機者増に関係しているといえそうです。