“バリデーション療法”とは、認知症の高齢者の行動には意味があるものととらえ、何故そのような行動をとるのかを考え、共感することに重きを置いたコミュニケーション方法として注目をあつめているものです。
目次
【1】バリデーション療法とは?
【2】バリデーション療法のやり方は?
【3】バリデーション・ワーカーになるには?
【4】バリデーション療法で、共感し、敬意をもった認知症ケア
バリデーション療法とは?
バリデーション療法は、アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の高齢者とのコミュニケーション方法の1つです。
バリデーション療法のバリデーションとは、「強くする、認める、確認する」という意味で認知症の高齢者に対して、敬意を持ち感情に共感し、気持ちや行動を受け止めることで、高齢者が自尊心を回復し、介護士と信頼関係を築くことが期待できるとされています。
バリデーション療法のやり方は?
バリデーション療法には14のテクニックがあります。
センタリング(精神を集中・統一する)
精神を集中・統一することによって、認知症の方に共感することができます。深呼吸をして、自分の気持ちを落ち着けましょう。
オープンクエスチョン(開かれた質問をする)
「はい」「いいえ」で答えられる質問ではなく、「いつ」「どこで」「だれが」「どのように「なぜ」など、5W1Hで答える質問をしましょう。5W1Hで答えることによって、相手の考えを知ることができます。
リフレージング(言葉を繰り返し確認する)
リフレージングとは、相手の言葉を繰り返して確認することをいいます。
例えば、「お茶はいらない。」と言われた際に、「お茶はいらないんですね。」と言葉を繰り返すことによって、自分の言葉をきちんと認識してもらっているという安心感を感じることができるとされています。
反対のことを想像させる
訴えに対して、反対のことを想像させるような返答をしましょう。
例えば、「○○さんが部屋に入ってきた。」という訴えがあった場合、「その人が部屋に入ってこないこともあるんですか?」などということによって、反対のことを想像するように促します。反対のことを想像することによって、過去の経験を思い起こし、物事に対処する方法を導き出すことができるとされています。
極端な表現を使う
「食事が美味しくない。」という訴えがあった際に、「今までで最悪の味ですか?」と問いかけるなど、何かを表現する際に、「最低」「最高」などの極端な表現を使うことで、言葉を引き出すことや、感情を発散させることが可能となるとされています。
レミニシング
レミニシングとは、会話を過去に結びつけることによって、懐かしい思い出話をするというもの。過去の経験を思い出すことによって、自分の経験や考え方を取り戻すきっかけになるとされています。
例えば、見当識障害がある人の「夜眠れない」という訴えに対して、「若い頃も眠れないことがありましたか?」などと問いかけること。過去を思い起こすことで、眠れない時にどうしていたのかという対処法を思い出すことが期待できます。
好きな感覚を用いて会話をする
「視覚」「嗅覚」「触覚」など、感覚の中でも好きな感覚を見つけることによって、その感覚を連想する会話をするようにしましょう。例えば、嗅覚に反応するという方に対しては、「良い匂いがしますね。」「どんな匂いがしますか?」などの表現をしていくといいですよ。
アイコンタクト
認知症の方と会話する際に大切なのが視線を合わせて見つめること。視線を合わせることによって、視界が狭くなっているとされる認知症の方も、安心感を抱くことができます。
はっきりと優しく話す
会話をする際には、はっきりと低い声で、優しく話すということを意識しましょう。高齢になると、高音が聞き取りにくくなる方が多いため、低い声で話すことが大切です。
また、ゆっくり落ち着いて話すことによって、安心感を与えることができます。
話を持続させる
会話をする中で、しっかり聞き取れなかったということは往々にしてあるもの。そんな時、話を途切れさせてしまうのではなく、あいまいな表現を使って話を続けることが大切です。
タッチング
頬を両手で包み込む(母のタッチング)、肩に手を置く(友のタッチング)、など、触れることによって安心感を感じることができるとされています。ただし、触れられることに抵抗感を感じる方もいらっしゃるので、注意が必要です。
ミラーリング
ミラーリングは、相手の声の大きさや表情、行動などをまねること。徘徊している時に一緒に歩いたり、立ち止まった時には一緒に立ち止まるなど、一緒に行動することによって、会話以外でのコミュニケーションを図ることができます。
相手をまねることよって、相手の気持ちを理解することができるとされています。
音楽を用いる
好きな音楽を聴いたり、歌ったりすることは、過去を思い出したり、気持ちを落ち着かせる効果が期待できるとされています。一緒に歌を歌ったり、音楽を聴きながら過去の話をしてみるのもオススメです。
満たされていない人間的欲求と行動を結びつける
不穏な行動や言動の裏には、「愛されたい」「感情を発散したい」「人の役に立ちたい」という欲求が隠されているとされています。何か症状が現れた際には、その裏には何があるのかを想像してみるといいですよ。
バリデーション療法は、認知症の方の行動や言動には、必ず何かしらの意味があるとするもの。14のテクニックを使うことによって、相手の思いを知り、信頼関係を築くことが可能となります。
バリデーション療法によって期待できる効果とは?
バリデーション療法によって期待できる効果として
- 社交的になる
- 徘徊などの問題行動が減る
- コミュニケーションが増える
- 自尊心を取り戻す
- ストレスや不安が軽減される
などがあるとされています。
また、家族や介護者も
- コミュニケーションをとるのが楽しくなる
- 高齢者の行動の理由を理解することにより、フラストレーションが解消される
といった効果を得ることができるとされています。
(参考:https://ci.nii.ac.jp/els/contents110007721892.pdf?id=ART0009523998)
バリデーション・ワーカーになるには?
バリデーション療法の専門家として活動することができる資格として「バリデーション・ワーカー」があります。
バリデーション・ワーカーは、公認日本バリデーション学会が認定する認定資格であり、全6回のスクリーニングと実践学習を受講し、課題の提出、筆記・実技試験に合格することによって取得することができます。
現在、東京と大阪の2つの会場で開催されていて、定員はそれぞれ25名と30名。受講料は295,000円となっています。各回、満員になるので、資格取得を検討している方は早めにチェックされるといいですよ。
(参考:http://www.clc-japan.com/validation/course.html)
バリデーション療法で、共感し、敬意をもった認知症ケア
OECD、経済協力開発機構が2017年に行った調査によると、日本の全人口に占める認知症の方の割合は、2.33%に上るという結果が得られています。
2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になるといわれるなど、認知症は身近なものとなっているので、高齢者に共感し、敬意をもって接することにより、信頼関係を築き、徘徊などの問題行動を減らす効果が期待できるバリデーション療法は、今後ますます注目が集まる方法であるといえます